研究課題/領域番号 |
23591289
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研究機関 | 独立行政法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
有廣 昇司 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 医師 (10599723)
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研究分担者 |
豊田 一則 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (50275450)
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キーワード | 脳血管障害 / 糖尿病 |
研究概要 |
本年度は,脳梗塞急性期の発症早期の血糖管理状況とその予後(急性期増悪や再発,退院時や3ヶ月後の予後)について, 2008年からの3年間について後向きに調査を行い,中間解析を行った. 発症7日以内に入院した糖尿病(DM)を有する脳梗塞/TIA連続258例(男性193例,平均72歳)を対象に,インスリンによる急性期血糖スケール管理の有無と患者背景,脳卒中重症度や転帰の関係について検討し,低血糖症例については発症時の状況に関しても調査した.インスリンによるスケール管理を行った130例は,管理しなかった群(128例)と比較すると入院時の神経症状は重度で,血糖,HbA1cは高値であり,インスリン管理はより重症例において導入されていた.このインスリン管理群130例のうち,低血糖(≦80mg/dl)エピソードが観察された19例(15%)は,残りの111例と比較して,高齢(76歳vs71歳,p=0.031)であったが,入院時血糖(163± 68mg/dl vs 206± 86mg/dl, p=0.040)やHbA1c(6.9±1.3%vs 7.9±2.0%, p=0.035)はむしろ低値であり,元々の血糖管理が良好な高齢者に対する急性期の血糖是正は低血糖をきたす危険性が確認され,以上の内容を国内学会(第54回日本神経学会学術大会,東京,2012年5月)で発表した. また,入院中の低血糖エピソードについて多変量解析を用いて関連因子を検討したところ,脳梗塞・TIA発症前のDMに対する薬物治療(オッズ比19.72,p<0.001)とともに,インスリンによるスケール管理(オッズ比2.53,p=0.046)もその関連因子となった.この結果は,国際学会(International Stroke Conference 2013,Honolulu)に採択され,2013年2月発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
後向き研究については,前年度の脳梗塞急性期例における入院時血糖やHbA1cと予後の関連についての検討に続き,本年度は脳卒中集中治療ユニット(SCU)入院例を対象とした入院後のインスリンによる血糖管理や低血糖エピソードと予後について,中間解析ではあるが国内・国際学会で発表ができている,前年度に手がけた研究を含め,残りの症例登録や解析を行う事で後向き研究の内容については達成が見込める状況である. これらの研究結果からSCU共通の血糖管理スケールを策定した上で,前向き研究も予定していた.しかし,従来の血糖管理を2010年まで検討したところ低血糖症例も観察されており,また,血管内治療を含めた診療体制の大きな変化から,当初の研究計画で想定していた共通の血糖管理を積極的に導入する状況ではないと判断した.
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今後の研究の推進方策 |
初年度,本年度で取り組んでいる後向き研究については,目標期間までデータベースを完成し論文作成を行う. 当院では2012年1月より電子カルテへ移行したが,経験的に作成された血糖スケールが設定され,現状では多くの診療医が利用している.この血糖管理スケールの安全性ならびに妥当性を前向きに検証することで,当初の研究目的であるエビデンスの構築に寄与する研究成果が得られると考えており,血糖変動性と転帰の関連についても検討していきたい.電子カルテ稼働(2012年)後から2013年12月までのSCU入院の該当症例について調査登録を行い解析する予定である.
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次年度の研究費の使用計画 |
後向き研究については,既存のデータベースを活用し患者抽出を行っており,そのためデータベースの新規作成費用は不要であったが,最終登録にむけ管理維持費は必要となる.データ収集や解析に必要な機器(ワークステーション)や統計ソフトの購入を予定しており,入力協力者への謝金などを支払う可能性がある. 最終年度にあたり,研究成果を国内外に積極的に発信するための会議や学会への参加に必要な諸費,論文作成に関連する雑費などを支払う.持続血糖モニタリングが可能な新規医療機器について,現在の診療体制の中で,有益な血糖解析への活用が可能であれば導入も検討したい. (残額が発生した理由) 本研究の最終年度に必要な機器や解析ソフト等の物品費,成果発表にかかる旅費,印刷費にかなりの額が必要と見込まれたため,本年度の使用を押さえ次年度に繰り越した.
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