研究課題/領域番号 |
23591292
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
水上 浩哉 弘前大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00374819)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 2型糖尿病 / β細胞容量 / 細胞増殖 |
研究概要 |
本邦において2型糖尿病は爆発的に増加しており、社会的に大きな問題となっている。特に日本人糖尿病においては膵β細胞のインスリン分泌不全が病態に大きく寄与していると考えられてきた。その一因として、膵β細胞の進行性脱落がある。現在では糖尿病を根治させるためには膵β細胞数、容積の増加が不可欠と考えられている。今回の研究ではプロゲステロン受容体(PgR)シグナル、DNAメチル化亢進制御による新たな膵島を標的とした治療の確立を目指す。 今年度の研究では上記の研究の背景となるデータとして、本邦非糖尿病ヒト膵組織における加齢、BMIによるβ細胞容量、増殖能変化の解明を試みた。弘前大学医学部附属病院及び関連病院から提供された症例を、各年代別に男性53症例、女性61症例、計114症例を検討した。剖検膵組織をH&E染色でスクリーニングし、間質の線維化、自己融解が強いものは除外した。抗クロモグラニン抗体で免疫染色して膵島容量を計測した。その後、抗インスリン及び抗グルカゴン、ソマトスタチン、PP抗体のカクテルを用いた2重免疫染色を施行し、内分泌細胞容量を計測した。さらに膵島における坑Ki-67抗体、坑インスリン抗体を用いた2重染色によりβ細胞および膵島非β細胞の増殖能を検討した。 膵島容量は30-40代でピークを迎え、その後漸減することが見出された。これはβ細胞、非β細胞に分けて計測してみても同様であった。BMIによる膵島容量への影響は非β細胞、β細胞ともに認められなかった。 Ki-67抗体を用いた膵島細胞増殖能の検討では、非β細胞、β細胞ともに10歳までで増殖能が最大であり、10歳以降は増殖能は非常に低い(約0.5%)ことがみいだされた。このことは成人になると膵内分泌細胞は増殖がほとんど起こらず、そのturnoverは乏しいことが予想された。また、明らかなBMIと増殖能の相関も認められなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究実地計画では(1)ヒト膵組織の準備、(2)膵島容積、細胞構成、増殖能、アポトーシスの検討があげられていた。(1)に関しては各年代別に114症例という膨大な検体を集めることができた。実際はさらに多くの検体を集めたが、H&E染色でスクリーニングした結果、組織的に不適切であった症例や、臨床情報が乏しく使えなかった症例があったため114症例になった。しかしながら、加齢、体格変化による膵内分泌細胞動態を検討するには十分な症例数と考えられた。(2)に関しては膵島容積、細胞構成では多数の症例であるにもかかわらず、形態計測を無事に終了することができた。内分泌細胞増殖能に関しても解析を終わらすことができ、興味深い結果が得られた。アポトーシスに関しては抗活性化カスパーゼ3抗体により免疫染色を行ったもの、染色性の解釈の困難により確実なデータとして結果を残すことができなかった。アポトーシスのdetectionとしてTUNEL法の使用などが必要かもしれないと考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の結果から非糖尿病ヒト検体における加齢、体格変化による膵島の容量、増殖能変化に関する基礎データが得られた。これらデータをもとに、次年度以降は、(1) 糖尿病検体における膵島容量、増殖能の変化の計測、(2) その変化の背景にある分子的解析を行う。具体的には、パラフィン切片から膵島をマイクロダイゼクションして、DNAを抽出し、DNAのメチル化状態を検討する予定である。さらに、(3) 動物モデルでも同様な変化が起きているか検討する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.マイクロダイゼクションを用いた膵島細胞DNAメチル化亢進の検討 非接触型のマイクロダイゼクション装置(PALM マイクロビーム、Carl Zeiss)を用いてパラフィン切片より膵島のみをin situで単離する。単離された膵島組織からフェノール、クロロホルムを用いた定法に従ってDNAを抽出する。抽出されたDNAは品質を調べた後、BisulFast® DNA Modification Kit(TOYOBO)を用いてbisulfate処理を行う。各遺伝子のプロモーター領域におけるCpG島を標的としたプライマーを用いてPCRを行い、DNAのメチル化亢進を検討する。ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動にてメチレーションバンドが確認されたら、DNAをシークエンスにかけ、メチレーションの頻度を検討する。BigDye® Terminator v3.1 cycle sequencing kit 、ABI prism 3100 genetic analyzer (Applied Biosystems)を用いてシークエンスを行う。2.糖尿病モデル膵島におけるPgRの発現変化、DNAメチル化亢進の確認非肥満型モデルであるGoto-kakizakiラット及びそのコントロールとしてWistarラットを用いる。GKラットは耐糖能異常とともに、進行性のβ細胞減少を示す(Koyama M, Mizukami H, et al. Am J Pathol. 153:537-45. 1998)。膵組織においてPgRの発現を年齢別に免疫染色で検討する。さらに、コラゲナーゼ法により膵島を単離後、DNAを抽出する。ヒトで見出された遺伝子のメチル化亢進、mRNAの発現解析を行う。mRNA発現はrealtime PCRで行う。
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