日本人の非糖尿病症例を0-80歳まで各年代ごとに115症例集め、膵島を組織学的に検討した。ホルマリン固定パラフィン包埋膵臓切片で抗クロモグラニンA抗体、抗インスリン抗体を用いた免疫染色を施行し、膵島細胞の形態計測を行った。その結果、膵島容積、非β細胞容積は0代で最大となり、その後10代から80歳まで漸減していったが統計的にはほぼ一定であった。それに対し、β細胞容積は0-80歳までほぼ一定であった。欧米人では膵島細胞容積は肥満により代償的に増加することがわかっている。そこで、BMIと膵内分泌細胞容積との相関を調べた。欧米人と異なり、日本人では膵島、β細胞、非β細胞ともにBMIと明らかな正の相関は認められなかった。このことから、日本人の膵島細胞は欧米人に比し環境因子に対して適応しずらいことが見出された。また、膵島細胞の増殖能をKi67陽性細胞細胞割合で検討した。全膵島細胞は0歳代で増殖能は最大であった。しかしながら、10代以降はほぼ一定であり、約0.5%以下と増殖能はほとんど認められなかった。膵島細胞をマイクロダイゼクションして、DNAを単離した。その後、メチレーション特異的PCRを行って、プロゲステロン受容体、P16のプロモーター領域のメチル化を検討した。その結果、プロゲステロン受容体では明らかなDNAのメチル化は見出されなかった。P16のメチル化も同様に大部分の症例では認めることができなかった。しかしながら膵島P16の発現が低下している一部の症例では、P16のDNAのメチル化がおきていた。そのような症例では膵島におけるKi67の発現が亢進しており、膵島の増殖能が増加するときにDNAのメチル化の変化が起きる可能性が予想された。その際、ポリコーム抑制複合体2の酵素の一つであるEZH2が膵島細胞に強発現していた。これらのことからエピジェネティックな修飾、特にDNAおよびヒストンのメチル化が膵島細胞増殖に関与していると考えられた。
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