研究課題
インスリン作用の“負の側面”ともいえるグルコーストランスポーター(GLUT4)分解促進作用に関して,最近,我々は,インスリンが脂肪細胞において,活性酸素の産生促進を介してCK2キナーゼ依存性にレトロマー複合体の機能を阻害することにより,細胞内におけるGLUT4のソーティングをTGN方向(リサイクル)からリソソーム方向(分解)へスイッチし,GLUT4の分解を促進する,というモデルを支持する成績を得た。25年度は,この作業仮説の検証を様々な手法を用いて行い,以下の点を明らかにした。1.インスリンによる過酸化水素産生促進作用にホスファチジルコリン(PC)特異的ホスホリパーゼCが関与することを明らかにし,さらにPC水解産物であるホスホリルコリンの添加によりNADPHオキシダーゼが活性化されることを示し,ホスホリルコリンが細胞内シグナルとして機能する可能性を示した。2.インスリンおよび過酸化水素がホスファターゼPP2Aを抑制することを明らかにし,これらの刺激によりCK2活性が相対的に優位となる可能性が示唆された。3.レトロマー複合体コンポーネントであるVps35がCK2の基質であり,Vps35のリン酸化によりレトロマー機能が阻害されること,Vps35-S7A変異によりインスリンのGLUT4分解促進作用が阻害されることを明らかにした。以上の結果は,我々の当初の作業仮説,すなわち,インスリン受容体→PC-PLC活性化→Nox4活性化による過酸化水素産生亢進→PTP1BあるいはPP2A抑制→CK2活性の相対的優位→レトロマーリン酸化によるLDM膜からの解離→GLUUT4ソーティング方向の転換による分解促進,というシグナル経路を支持するものであり、GLUT4蛋白の運命を制御する新たなインスリン作用機構を示したといえる。
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