研究課題
最近の研究により各種生活習慣病の背景には、慢性炎症を基盤とした異常な細胞間作用が生体内で生じていることが明らかになっている。我々は、一光子・二光子レーザー顕微鏡を用いた「生体分子イメージング手法」を独自に開発し、生活習慣病にアプローチしてきた。山下らは、本手法を肥満脂肪組織に適応し、肥満脂肪組織で、脂肪細胞分化・血管新生が空間的に共存して生じ、また、脂肪組織微小循環では炎症性の細胞動態を生じている事を明らかにした。また、肥満脂肪組織にはCD8陽性T細胞が存在し肥満・糖尿病病態に寄与していた。さらに、本手法を用いて生体内の血栓形成過程の詳細も明らかになっている。研究過程においては、生体イメージング手法を積極的に取り入れ、分子生物学とのすりあわせを行うことで生体内の多様な病態メカニズムを明らかにしている。たとえば、血栓形成の過程には血小板だけでなく、各種炎症性細胞(マクロファージ・リンパ球)や血管内皮細胞とその障害、局所の血流動態が関わっている。このような多細胞からなる複雑病変とそのダイナミクスが病態の本質であるが、今まで生体内で検討する手法は存在しなかった。今回イメージング手法では単一血小板をはじめて生体内で可視化することに成功している。本イメージ手法ではiPS分化誘導細胞を用いた細胞療法の臨床応用に向けて、安全性・有用性を評価する上でもきわめて有用性が高い手法と言える。さらに、最近では、人工血小板の作成を飛躍的に改善する分子メカニズムがより明らかになりつつあり、臨床応用も近いと考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
初期の目標である、脂肪組織の基礎病態解析については、多くの知見を得られることができている。現在、B細胞の形質について論文を投稿し、査読中である。一方、さらに対象領域を広げ、現在は血栓、造血、腫瘍などに研究計画を進めており、今後の発展が予想される。
我々はすでに生きたマウスにおいて、腸管をパイエル小体、腸粘膜、腸絨毛、内腔、のレベルにまで二光子励起顕微鏡により観察が可能になっている。本研究では、これらの手法を推し進め、免疫細胞を特異的にラベルし観察し、無菌マウス、腸内細菌に異常を来しているマウスにおいて観察を行う。腸内細菌と、腸管における免疫系細胞の関連を明らかにする。脂質をはじめとする食事由来の成分が、いかに腸管及び、脂肪組織、脾臓・リンパ節などの免疫組織に影響を与えるかを検討し、腸内細菌をコントロールすることで肥満に伴う免疫異常を正常化する可能性について模索する。最近の研究で、修飾脂質が脂質メディエータとして多様な作用を持つ事が明らかになってきている。リン脂質は血管内皮機能障害を来たし、平滑筋を遊走・増殖し、動脈硬化を促進する。申請者らは、検診受診者の血清に対し、各種リン脂質と生合成酵素、アディポネクチンを測定し、各種リン脂質と生合成酵素、アディポネクチンを測定し、LPA生合成酵素であるオートタキシンの値が内臓肥満・メタボリックシンドロームと強い相関を持つことを明らかにした。メタボリックシンドロームの診断に際して、オートタキシンはアディポネクチンと同等の診断能力を持つことが示されている。さらに食事由来炉考えられる、修飾脂質の一つであるリゾリン脂質はインスリン抵抗性と相関を持つ事も明らかになっている。本研究では、これらの知見を踏まえて、オートタキシンの生体での機能、リゾリン脂質の生体内での作用について解析を行い、特に食事由来の脂質がいかに腸管免疫を賦活化するかを検討する。本研究ではさらに、新たなメタボリックシンドロームのバイオマーカーとしての位置づけを行う。
上記研究遂行のための試薬、実験動物などの物品購入、学術集会発表のための出張費用に充てる。
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Blood
巻: 119 ページ: e45-e56
doi: 10.1182/blood-2011-09-381400