研究課題
【目的】メタボリックシンドロームのモデル動物であるSHRにおける原因候補遺伝子KAT-1(kynurenine aminotransferase-1)のノックアウトマウスを作製し、KAT-1の生理機能とメタボリックシンドロームの成因を探る。 【方法】発生工学的手法を用い、遺伝子相同組み換えにより開始コドンを含むエクソン1-2の領域を欠失するデザインに基づきKAT-1を完全欠損するノックアウトマウスを作製し、各種表現型の解析に関しては、血圧、カテコラミン分泌の評価、糖脂質代謝、インスリン抵抗性、体重、飲水量、尿量等の評価、12週間高塩食、高脂肪食負荷下における解析を行った。 【成績】1) 欠損ホモマウスの各組織において、KAT-1の発現がmRNAおよび蛋白レベルで欠損していることを確認した。欠損ホモマウスは正常に出産・発育し、SHRと同様に、2) 普通食下において、tail-cuff法およびtelemetryシステム法により有意な血圧と脈拍の上昇を示し、12週間高塩食下および高脂肪食下において、血圧の更なる上昇を示し、この傾向はマウスの交感神経活動が高まる夜間により顕著に認めた。さらに、3) 高塩食下における24時間蓄尿中のカテコラミン分泌の亢進を呈し、4) 普通食下において、空腹時血糖値の有意な上昇とインスリン負荷試験によるインスリン抵抗性の亢進を示し、高脂肪食下における空腹時血糖値の更なる上昇を示した。そして、5) 活動度の増加に伴い、高脂肪食下における体重・脂肪組織重量の増加率の減少を示した。一方、6) SHRには認められない多飲・低張性多尿などの尿崩症症状を呈した。【結論】SHRにみられる多様な病態の背景にKAT-1の異常が深く関わる可能性が再確認された。また、それらの異常がラットとマウスの種差を越えてKAT-1の異常によって引き起こされていることが強く示唆された。
3: やや遅れている
動物の確保が予定より遅れていたためである。
1)KAT-1ノックアウトマウスにおけるKAT-1アデノウイルスの投与実験(飯塚)KAT-1ノックアウトマウスにKAT-1アデノウイルスを経血管的、およびRVLMへ選択的に投与することにより、KAT-1ノックアウトマウスの表現型がどこまでレスキューされるかを確認する予定である。2)KAT-1ノックアウトマウスと肥満モデルとの交配(飯塚、矢作)KAT-1ノックアウトマウスと肥満モデル動物であるob/obマウスやdb/dbマウスと交配することにより、KAT-1の肥満やインスリン抵抗性への関与を検討する予定である。表現型の解析と同様の実験を行い、評価する予定である。研究分担者である矢作は、以前にも肥満モデル動物との交配を用いた実験の経験があり、その経験を生かして、密に連絡を取りながら、研究を進めて行く予定である。3)KAT-1ノックアウトマウスの動脈硬化モデルとの交配(飯塚)KAT-1ノックアウトマウスと脂質異常症、動脈硬化モデル動物であるLDL受容体ノックアウトマウス、あるいはアポEノックアウトマウスを交配することにより、KAT-1の動脈硬化への関与について検討する予定である。4)ヒト相同遺伝子 (CCBL1) の解析(飯塚)ラットKAT-1のヒト相同遺伝子 (CCBL1) は9番染色体の長腕に位置し、この領域はgenome-wide scanにより、ヒトの糖尿病、高血圧、内臓肥満と連鎖することが報告されている。CCBL1の各エクソンとプロモーター内に存在する多型のスクリーニングを行い、プロモーター領域内に頻度の高いSNP (C-237T多型) を同定し、ルシフェラーゼプロモーター活性測定を通じて本遺伝子多型がプロモーター活性に影響を与える機能的多型であることを確認し、CCBL1とヒトでの糖尿病、高血圧、肥満との関係について、800名程度の日本人を対象に調べる予定である。
実験用動物60万円、培養器具20万円、チューブ類15万円、チップ10万円、試薬25万円、アイソトープ10万円。
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