研究課題
申請者は2型糖尿病患者に肥満が伴うと肝臓でのプロテアソーム関連遺伝子群が協調的に発現亢進すること(Obesity 2008)を示した。近年、タンパク合成系がインスリン抵抗性や加齢に関わっている可能性が示された。一方、プロテアソームはエネルギー依存性の選択的タンパク質分解を担い、細胞周期、免疫応答など広範囲な生命現象に関与している。本研究では、これまで不明であった肥満状態の肝臓におけるプロテアソームの機能破綻がインスリン作用に及ぼす影響とその分子機構を解明することにある。平成23年度は肥満モデルマウスである高脂肪食負荷マウスおよびdb/dbマウス、さらにProteasome activator (PA) 28ノックアウトマウスを用いてこの経路の意義を検証した。高脂肪食負荷マウスおよびdb/dbマウスの肝臓では、キモトリプシン活性を指標として定量したプロテアソーム活性が30-44%低下していた。これらのモデルマウスの肝臓では、ポリユビキチン化タンパク蓄積、ERストレス、ストレスキナーゼJNK活性化を伴うインスリン抵抗性が生じていた。そこで、プロテアソーム活性低下とインスリン抵抗性の関連を明らかにする目的で、PA28ノックアウトマウスの表現系を解析した。PA28 KOマウスの肝臓におけるプロテアソーム活性は、肥満モデルマウスと同程度の約60%に低下していた。このとき、肥満モデルマウスの肝臓で観察したごとく、PA28 KOマウスの肝臓では、ポリユビキチン化タンパクが蓄積し、ERストレスが生じ、その下流のストレスキナーゼJNKが活性化し、インスリン抵抗性が生じていた。以上の結果は、従来不明であった肥満・過栄養状態によるERストレスの誘導に、プロテアソーム活性低下する可能性を示唆する。
2: おおむね順調に進展している
当初のヒト発現遺伝子解析結果をもとにした仮説では、肥満状態の肝臓で蓄積したERストレスを軽減するためにプロテアソーム活性が代償的に上昇することを想定していたが、実際のモデルマウスで生じていた現象は逆であった。すなわち、肥満や過栄養状態では、プロテアソーム活性は低下し、このことがERストレスに成因としてとして関与する可能性が見えてきた。すなわち、予想外の結果から、プロテアソーム活性低下が従来不明であった肥満とERストレスを介在する経路として関与する、という新たな仮説が生まれた。
平成24年度は、プロテアソーム活性→ポリユビキチン化タンパク蓄積→ERストレス→JNK活性化→インスリン抵抗性という一連の経路の因果関係を細胞レベルで検討する予定である。この目的のため、プロテアソーム阻害薬とともに培養した肝細胞で上記の経路を検討し、プロテアソーム活性化薬、ケミカルシャペロン、JNK阻害薬等を用いたキャンセル実験で特異性を検証する。また、前年度に実施した動物の組織サンプルを用いて、電子顕微鏡解析と上記の経路のさらに詳細な検討を追加する。
各種シグナル経路の阻害薬、Western blotting関連試薬、各種抗体、DNA Chip関連試薬、Realtime PCRプローブキット、細胞培養関連試薬等の消耗品を中心に計上している。次いで、本研究の計画や遂行の妥当性を確認し、より優れた成果をあげるため、国内および海外の学会旅費、および学術誌への論文投稿料と英文校正費が必要となる。平成23年度は、すでに購入済みの抗体や試薬を用いてマウスの実験を行ったために余剰金が生じたが、新規実験に着手する平成24年度には上記消耗品を中心に、繰越研究費をあわせて使用する予定である。
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