研究課題
肥満・過栄養状態は、肝臓に小胞体ストレスをもたらし、このことがストレスキナーゼJNKを活性化させ、IRSのレベルでインスリン抵抗性を形成することが示されたが、肥満・か栄養状態がいかなる機序で小胞体ストレスを形成するかは不明のままであった。申請者は、昨年度までの研究で、肥満・糖尿病モデルマウスの肝臓では細胞内タンパク分解系プロテアソーム(PS)活性が低下し、ユビキチン化タンパクが蓄積すること、Proteasome activator 28 (PA28)ノックアウト(KO)マウスの肝臓では、プロテアソーム活性が肥満モデルマウスと同程度の約60%に低下すること、インスリン抵抗性が形成されることを示した。本年度は、これらの現象を多面的に確認し、因果関係を検証した。PA28KOマウスの肝臓では、1) ユビキチン化タンパクが蓄積した。 2) 小胞体が膨化し、小胞体ストレスが亢進した。 3) JNK活性化がインスリン受容体基質(IRS)の活性化を抑制し、4) グルコースクランプ試験で肝糖産生が増加した。 5) ケミカルシャペロンである4-Phenylbutyric acid (PBA)投与により、ERストレスとインスリン抵抗性が改善した。さらに、ラット肝癌由来H4IIEC3細胞を用いた検討では、1) 選択的PS阻害剤 Bortezomib処置により、ユビキチン化蛋白の蓄積、ERストレス、JNK活性化、インスリン抵抗性が生じ、2) これらの変化はPBAにより改善した。以上の結果より、従来不明であった肥満・過栄養状態による肝臓インスリン抵抗性は次のように説明されることがわかった。肥満状態の肝臓ではPS活性が低下し、ポリユビキチン化蛋白質が蓄積する。このPS機能異常は、異常蛋白質の蓄積に起因するERストレスを誘導し、JNK活性化を介して肝にインスリン抵抗性を惹起する。
1: 当初の計画以上に進展している
当初のヒト発現遺伝子解析結果をもとにした仮説では、肥満状態の肝臓で蓄積したERストレスを軽減するためにプロテアソーム活性が代償的に上昇することを想定していたが、実際のモデルマウスで生じていた現象は逆であった。すなわち、肥満や過栄養状態では、プロテアソーム活性は低下し、このことがERストレスに成因としてとして関与することが明らかとなった。すなわち、仮説と反対の結果から、プロテアソーム活性低下が従来不明であった肥満とERストレスを介在する経路として関与する、という新たな仮説を設定し、モデル動物と細胞の系で証明することができた。さらに、付加的な知見として、PA28KOマウスの肝臓では、核内活性型SREBP-1cの蛋白量増加と脂肪肝を呈した。また、核内FoxO1の蛋白量増加と肝糖新生酵素遺伝子発現が亢進した。これらの知見は、PS機能の低下が、インスリン作用とは独立して、脂肪肝と肝糖産生亢進に寄与することを示唆する。従来より、2型糖尿病の肝臓では、選択的インスリン抵抗性が生じている、すなわちインスリンの肝糖新生抑制作用は抵抗性になっている一方、インスリンの脂肪合成作用は亢進していることの分子機構が不明であった。申請者の知見はこの2型糖尿病の肝臓における選択的インスリン抵抗性の分子機構の一部を説明しうるかもしれない。以上の成果は米国糖尿病学会誌 Diabetes 2013に掲載された。
今回の研究の過程で、PA28KOマウスの肝臓ではインスリン抵抗性が高まる一方、骨格筋ではインスリン感受性が亢進していた。骨格筋ではタンパク分解系や小胞体ストレスとエネルギー代謝調節の関連がどのように制御されているのかを探求するモデルとして興味深い。今後、運動負荷後のAMPキナーゼ活性化や、インスリン感受性を観察することから、この問題に挑戦したい。また、PA28KOマウスではオートファジーが亢進していた。PSとオートファジーの代償関係がエネルギー代謝にどのような影響をもたらすのかも探求したい。
次年度への繰越研究費121365円を含め、本年度は、各種シグナル経路の阻害薬、Western blotting関連試薬、各種抗体、DNA Chip関連試薬、Realtime PCRプローブキット、細胞培養関連試薬等の消耗品を中心に計上している。次いで、本研究の計画や遂行の妥当性を確認し、より優れた成果をあげるため、国内および海外の学会旅費、および学術誌への論文投稿料と英文校正費が必要となる。
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