高脂肪食投与に伴う肥満では視床下部において炎症およびER stressを生じる。PTP1B欠損マウスは肥満抵抗性を示しPTP1Bの発現調節に関与する因子としてTNFα、IL-6およびER stressが示唆されている。 野生型ラットより視床下部を取り出し視床下部器官培養を施行した。視床下部切片を作製後、無血清培地で培養しメディウム中にTNFαを加えた。実験の結果、1.TNFαはPTP1BのmRNA、蛋白発現、活性を時間、濃度依存的に増強した。2.TNFαはシグナル下流のNFkBリン酸化を時間、濃度依存的に増強した。3.TNFα投与に伴うPTP1Bの蛋白発現増加はNFkB阻害剤投与によりコントロールレベルまで減弱した。以上より、肥満時に増加するTNFαがNFkBのリン酸化を増強することで視床下部PTP1Bの発現や活性を増強し、中枢におけるレプチン抵抗性の一因となる可能性が示唆された。尚、本研究成果はRegul Pept.に掲載された。 次に、IL-6およびER stressorを用いて同様の実験を施行したところ、TNFαの結果とは異なり、PTP1Bの発現に何ら影響を与えなかった。一方、PTP1Bの欠損マウス(KO)および野生型マウス(WT)マウスを用いた視床下部器官培養の実験では、TNFα刺激によりWTおよびKO共に視床下部TNFαのmRNA発現は対象群と比較して有意に増加したが、その上昇はWTと比較してKOで有意に減弱した。また、高脂肪食を投与したin vivoの実験では、抗炎症性サイトカインであるIL-10やTGFβ1の遺伝子発現に加え、高脂肪食に伴う視床下部炎症に対して保護的に作用するとされるgliosis関連遺伝子の発現がKOの視床下部レベルで有意に上昇しており、視床下部PTP1BはTNFα刺激による視床下部TNFαの発現を増強する因子の一つである可能性が示唆された。
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