研究課題/領域番号 |
23591304
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
卯木 智 滋賀医科大学, 医学部, 講師 (20378483)
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キーワード | metabolic syndrome / 脂肪生検 / 内臓脂肪 |
研究概要 |
我々は、ヒト生検内臓脂肪組織および皮下脂肪組織を用いたマイクロアレイ解析により、肥満者の内臓脂肪において特異的に発現が増加する因子(遺伝子X)を新規に同定した。2種類の肥満モデルマウス(高脂肪食負荷マウスおよびdb/dbマウス)における検討でも、内臓脂肪特異的に発現が増加していることを確認した。さらに、脂肪生検を行った43名での検討において、内臓脂肪組織における遺伝子X mRNA発現量は、BMIおよびウエスト周囲径と有意に正相関したが、皮下脂肪組織における発現は相関しなかった。 この因子は、gene ontology解析からシグナルペプチドを有する分泌蛋白であることが予測された。実際、培養細胞にFLAG-tag遺伝子を過剰発現させ、抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロット法にて、培養液に蛋白が分泌されていた。このことから、その血中濃度は内臓脂肪量を反映する可能性がある。すなわち、内臓脂肪量を推定するバイオマーカーとしての可能性がある。(現在、論文投稿中) さらに、この因子は、in vitroでの検討により、インスリン抵抗性を引きおこすという結果を得ている。マウスにおける検討では、過剰発現により体重増加、血糖値上昇をひきおこした。以上のことから、この因子は、脂肪細胞から分泌される新規のアジポカインである可能性が示唆された。 これらのことから、血中濃度測定系の確立、血中濃度と肥満度との相関を検討し、内臓脂肪量を推定するバイオマーカーとしての意義を検討し、ノックアウトマウスの作成とその解析により、この因子の病態的生理的意義についてさらに検討を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
【ノックダウンマウスの作成】 Inducible RNAi knockdown systemを用いて、ノックダウンマウスを作成した。このシステムでは、比較的早くマウスを作成できること、ドキシサイクリン(DOX)投与により、遺伝子を後天的に欠失させることが可能である。作成したマウスの遺伝子発現を検討したところ、DOX投与により遺伝子はほぼ完全に欠失させることができた。しかし、DOX非投与下においても、遺伝子発現が約50%低下した。以上の結果から、DOX投与マウスはホモノックアウトモデル、DOX非投与マウスはヘテロノックアウトモデルに相当すると考えられた。2つの異なるシークエンスにより、RNAをノックダウンし、2系統のノックダウンマウスを作成したところ、異なる表現系を呈した。以上のことから、ノックダウンマウスに見られた表現系はオフターゲット効果である可能性が否定できなかった。 そこで、ノックアウトマウスを作成することとし、来年度は作成したマウスの表現系を検討する。 【血中マーカーとしての意義】 我々は、ヒトの遺伝子Xの産物の血中濃度を測定できる高感度サンドイッチELISAを作成しており、一般住民を対象にした検討を行った。一般住民男性300名を対象に、遺伝子X遺伝子産物血中濃度と肥満度、内臓脂肪面積との相関を測定した。しかし、それらとの相関は認められなかった。以上の結果から、血中濃度は肥満度や内臓脂肪量脂肪とは相関せず、血中マーカーとしての意義は不明であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方針 Inducible RNAi knockdown systemを用いて、ノックダウンマウスの作成に成功したが、2系統のノックダウンマウスは異なる表現系を呈し、オフターゲット効果である可能性が否定できなかった。以上の結果から、ノックアウトマウスを作成しその表現系を解析する必要が生じた。現在、作成中である。 当研究室では、作成したマウスの表現系を解析する手法・実験方法・環境をすでに整えている。 来年度はノックアウトマウスの作成に成功したあと、表現系(体重、摂餌量、熱産生、糖代謝、インスリン感受性、肝臓における糖新生に関わる酵素遺伝子発現)を詳細に検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
マウスの飼育費、血液検査費用、遺伝子調製、RTPCR試薬、抗体、実験試薬、マイクロアレイ解析などに使用する予定。
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