研究課題
ミトコンドリア遺伝子異常症(A3243G)の患者から樹立したiPS細胞では、変異比率が検出感度以下となるクローンと変異比率が高いクローンとが得られた。この変異比率の異なるiPS細胞クローンの存在が、元の樹立前の線維芽細胞において、変異比率が検出感度以下である細胞と変異比率が高い細胞とがモザイク状に存在していたためであるのかを検討する為に、患者由来線維芽細胞を限界希釈によりクローニングを行い変異比率を検討した。その結果、線維芽細胞においては長期培養により変異が蓄積されていくことがわかったが、変異を認めないような線維芽細胞クローンをえることはなかった。そのため、iPS細胞における変異比率の消失は少なくともiPS細胞初期化過程におけるミトコンドリア遺伝子の複製や増幅に関連した現象であると推定された。受精卵において一定量存在する変異が発生分化過程を経た体細胞において、モザイクとなることはあっても消失する可能性は低いと考察され、妥当な知見と考えられた。次に、変異比率がiPS細胞の樹立過程からの継代において大幅に変化する可能性について、各iPS細胞クローンを継代培養して変異比率を観察することにより検討した。その結果、変異の消失したクローンにおいては変異が復活することはなく、変異が多いクローンにおいても変異比率が減少したり増加することはなく一定の変異比率を維持することが観察された。更に、変異比率がiPS細胞の分化において変化するかを検討した。iPS細胞をbFGF無添加の浮遊培養により胚様体とした後に変異比率を検討した。その結果、変異の消失したクローンにおいては変異が復活することはなく、変異が多いクローンにおいても変異比率が減少したり増加することはなく一定の変異比率を維持することが観察された。
2: おおむね順調に進展している
ミトコンドリア遺伝子異常症患者から作成したiPS細胞において認められた変異比率の変化について、メカニズムの一端を明らかにした。また、変異が消失したiPS細胞クローンにおいては長期培養や分化により変異が復活しないことを確認できたため、遺伝子改変技術を用いない自家移植へむけた基礎的検討が出来た。更に、変異の多いiPS細胞クローンにおいては長期培養や分化により変異が変化しないことを確認でき、ミトコンドリア遺伝子異常症における病態生理を安定して検討することが可能な細胞系であることを示すことが出来た。
① 未分化状態・分化細胞におけるミトコンドリア機能の解析: 変異消失iPSクローンと変異増大iPSクローンの未分化状態あるいは心筋、神経、膵β細胞、代謝関連臓器へ分化させた状態における分化能、細胞機能、ATP産生能、β酸化、ラジカル産生について比較する。② 体細胞におけるミトコンドリア遺伝子変異率変化の検討: 神経や膵β細胞では加齢と共にミトコンドリア遺伝子変異が蓄積するとの報告もある。各種臓器へ分化させる過程や分化後経過時間におけるヘテロプラスミーを定量し、変異の蓄積過程を追跡する。③ iPS細胞を用いた代謝組織の作成: 膵前駆細胞の継代培養や培養条件の検討によりインスリンを産生するだけではない糖反応性獲得メカニズムを解析する。糖尿病状態において糖反応性が低下した膵β細胞にも共通する部分があると想定する。また、脂肪萎縮性糖尿病由来iPS細胞では脂肪蓄積能が低下していることを見出している。膵内分泌だけでなく白色・褐色脂肪組織の分化系も構築する。④ 患者iPS細胞から分化させた内分泌代謝組織を用いての網羅的遺伝子解析・薬物反応性の検討:サンプリングが困難なヒトの内分泌細胞が糖尿病状態においてどう変容しているか不明である。そこで、遺伝子異常を伴うiPS細胞(ミトコンドリア・seipin・lamin)について膵・肝・筋・脂肪へ分化させ、健常者由来iPSとの比較を行い網羅的なマイクロアレイ解析により未知のメカニズム・治療標的を検討する。また既知の薬剤への反応性やスクリーニングによるヒト内分泌代謝組織を用いた創薬を検討する。
細胞培養と遺伝子解析、蛋白発現解析に多額の費用が必要となる。
すべて 2012
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Diabetologia
巻: 55 ページ: 1689-1698
10.1007/s00125-012-2508-2.