研究課題/領域番号 |
23591312
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
西川 武志 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 特任准教授 (70336212)
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研究分担者 |
近藤 龍也 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 助教 (70398204)
久木留 大介 熊本大学, 医学部附属病院, 助教 (10555759)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 糖尿病合併症 / ミトコンドリア / 活性酸素 / 組織低酸素 / DNA傷害 |
研究概要 |
申請者らは糖尿病血管合併症発症機序として「高グルコースによるミトコンドリア由来活性酸素過剰産生」の意義を提唱している。本年度はこの仮説をさらに発展させたものとして、主に以下の(1)~(4)の実験を行った。(1)培養血管内皮細胞を用い、25 mMグルコース培養では5.5 mMグルコース培養に比し、低酸素状態が誘導されていることを、pimonidazole HCLを用いた免疫染色法およびウエスタンブロット法、HIF-1αに対するウエスタンブロット法および蛍光免疫染色法、VEGFに対する蛍光免疫染色法で確認した。(2)マウスにSTZ腹腔内投与による糖尿病導入を行い、コントロール正常マウスに比し、糖尿病マウスでは、腎糸球体でミトコンドリアDNA傷害のマーカーである8-hydoroxydeoxyguanonine (8-OHdG)の増加が認められる事を蛍光免疫染色法で確認した。(3)同様に、網膜でHIF-1α発現およびVEGF発現が増加する事を蛍光免疫染色法で確認した。(4)ミトコンドリア由来活性酸素の特異的除去酵素であるMnSODを内皮細胞特異的に発現させたトランスジェニックマウス(eMnSOD-Tgマウス)では、糖尿病導入による腎糸球体での8-OHdGの増加、網膜でのHIF-1α発現およびVEGF発現が抑制されている事を蛍光免疫染色法で確認した。これらの結果より、高血糖により組織内低酸素状態が誘導される可能性と、ミトコンドリアDNA傷害が生じている可能性を明らかにした。組織低酸素状態惹起とミトコンドリアDNA傷害の機序としては、ミトコンドリア由来活性酸素増加の関与が疑わしいが、今後さらに詳細の機序を明らかにしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは糖尿病血管合併症発症機序として「高グルコースによるミトコンドリア由来活性酸素過剰産生」の意義を提唱しているが、糖尿病合併症の発症機序にはまだまだ不明の点が多い。特に、 "metabolic memory"は合併症発症機序に残された大きなブラックボックスであり、"metabolic memory"の機序を解明することで、合併症発症機序の解明は大きく前進すると考えられている。本研究では、糖尿病でミトコンドリアDNA傷害や組織低酸素状態が惹起されている事がmetabolic memoryの一因であり、糖尿病血管合併症発症に大きな役割を果たしているのではないかとの仮説を検証する目的として、研究を行っている。2011年度の研究において、仮説である高血糖によるミトコンドリアDNA傷害や組織低酸素状態惹起の可能性について、pimonidazole HCLを用いた免疫染色法およびウエスタンブロット法、HIF-1αに対するウエスタンブロット法および蛍光免疫染色法、VEGFに対する蛍光免疫染色法など複数の方法を用いた検討を行なった。いずれの検討においても、高血糖によってミトコンドリアDNA傷害や組織低酸素状態惹起が存在するという、ほぼ一定の結果を得ており、研究としては概ね予定通り、進行していると考えている。今後は、糖尿病におけるミトコンドリアDNA傷害や組織低酸素の惹起がどのような機序で生じているのか、特にミトコンドリア由来活性酸素の関与について、主にアデノウイルスを用いた細胞での実験系とトランスジェニックマウスを用いた実験系で証明していく予定である。またミトコンドリアDNA傷害や組織低酸素の制御による合併症発症・進展抑制の可能性についても検討していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
2011年度の研究によって、高血糖によるミトコンドリアDNA傷害や組織低酸素状態惹起の可能性については、ほぼ一定の結果が得られたので、本年度はその機序の詳細について、特にミトコンドリア由来活性酸素の関与について研究を推進していく予定である。具体的にはミトコンドリア由来活性酸素の阻害酵素であるMnSODをアデノウイルスを用いて培養血管内皮細胞に発現させ、ミトコンドリア由来活性酸素制御と糖尿病におけるミトコンドリアDNA傷害や組織低酸素状態惹起の関連を検討する。また既に作成済である内皮細胞特異的にMnSODを発現させたトランスジェニックマウス(eMnSOD-Tgマウス)を用いて、in vivoからもミトコンドリア由来活性酸素制御と糖尿病におけるミトコンドリアDNA傷害や組織低酸素状態惹起の関連を検討する。さらにマウスを相対的低酸素下で飼育し、低酸素状態が、単独で糖尿病類似の病変を発現しうるのかを網膜や腎糸球体で検討し、糖尿病合併症発症における高血糖による組織低酸素状態惹起の意義を明らかにする。またmtDNA 修復酵素であるDNAポリメラーゼγの過剰発現による糖尿病合併症発症抑制の可能性も検討し、糖尿病合併症に対する新たな治療法の可能性についても検討を加える。これらの実験により、糖尿病合併症発症、とくにmetabolic memoryにおける高血糖によるミトコンドリアDNA傷害や組織低酸素惹起の意義を明らかにしていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は高血糖によるミトコンドリアDNA傷害や組織低酸素状態惹起の機序を証明する事が研究の中心となる。そのため、MnSODのアデノウイルスを用いた培養血管内皮細胞での実験で、2011年度と同様に、pimonidazole HCLを用いた免疫染色法およびウエスタンブロット法、HIF-1αに対するウエスタンブロット法および蛍光免疫染色法、VEGFに対する蛍光免疫染色法を行う必要がある。また次年度は組織内低酸素状態を定量化するため、pimonidazole HCLを用いたドットブロット法による解析も行う事を予定している。さらにDNAポリメラーゼγのアデノウイルスを用いた培養血管内皮細胞でも同様の検討を加え、ミトコンドリアDNA傷害の糖尿病合併症発症への関与にいても明らかにする。動物実験として、相対的低酸素モデルおよび糖尿病導入モデルで、コントロールマウスとeMnSOD-Tgマウスの両者を用いて、2011年度と同様に、網膜、腎糸球体での、8-OHdG、HIF-1α、VEGFの発現状態を主に蛍光免疫染色法や定量的RT-PCR法で解析する。測定機器はすべに既存のものでまかなえるので、新たな機器の購入予定は現時点でなく、主な支出は消耗品となる予定である。ただし次年度は、2011年にえられた成果の一部を国際学会などで発表する事も予定しており、そのための経費も計上する予定である。
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