研究課題
神経伝達物質(アセチルコリン)が膵β細胞機能維持(β細胞の生死、インスリン分泌、インスリンシグナル)に関わっているかを明らかにする目的で、まず無血清培養下MIN6細胞にアセチルコリンを添加し細胞数の変化を検討したところ細胞数が増加した。また、BrdU取り込みをフローサイトメトリーにて検討したところ、アセチルコリンによりBrdU取り込みが有意に増加した。アセチルコリンが膵β細胞の増殖を促すことが示唆された。ジアゾキシドにて、アセチルコリン刺激によるBrdU取り込みが部分的に抑制さておりインスリンレセプターを介した膵β細胞の増殖作用の経路が存在すると考えられる。インスリンシグナル活性化は膵β細胞の生死、複製に関わっており、インスリンシグナルの解析を行った。アセチルコリン刺激により、IRS-2とMAPkinase、CREBリン酸化が亢進していたが、Aktのリン酸化は認められなかった。MAPkinaseの阻害剤ではアセチルコリン刺激によるBrdU取り込みは抑制されず、MAPkinase経路、Akt経路とは異なった機序にて細胞増殖が起きていると考えられる。GLP-1作用の一部に自律神経が関わっているかを、マウスにGLP-1受容体作動薬であるliraglutideを投与し解析を行った。マウスにliraglutide投与を行うとインスリン分泌は増加するが、ムスカリニックレセプター阻害剤であるアトロピンを前投与するとliraglutideによるインスリン分泌は抑制されていた。またこの作用は糖尿病モデルマウスであるglucokinaseヘテロ欠損マウスでも同様の結果であった(Endocrinology, 153, 3066, 2012)。GLP-1によるインスリン分泌に自律神経経路の関与が考えられ、上記と同様にインスリンシグナルの活性化、膵β細胞の増殖作用に関し解析を進める。
2: おおむね順調に進展している
MIN6細胞において神経伝達物質の細胞増殖機構に関しほぼ計画通りに研究を進めた。マウスにおける解析では、迷走神経遮断の解析が手技的に確立しなかったが、代わりにムスカリニックアゴニスト投与を行うことで、神経伝達物質のβ細胞への役割に関しin vivoでの解析が可能となった。IRS2欠損マウスでのインスリン分泌に関し下記の推進方策に記載した通り新たな知見を得ている。インクレチン製剤の神経調節の関与についても、マウスにliraglutide投与を行い解析を進めた。
神経伝達物質、アセチルコリンの膵β細胞増殖作用の機序解明を引き続き行う。マウスにムスカリニックレセプターアゴニストを投与すると、血糖改善、インスリン分泌増加作用を認めており、現在、アゴニスト投与にてマウスの膵β細胞増殖が起きるかを組織学的に解析している。マウスでのβ細胞増殖が確認できれば、IRS-1、IRS-2、glucokinase、PI3-kinase欠損マウスを用い増殖作用を解析することで、β細胞増殖経路を明らかにすることができる。またインスリン分泌に関して、IRS-2欠損マウスにムスカリニックレセプターアゴニスト投与を行うと、野生型マウスに比して血糖がより改善し著明なインスリン分泌増加を認めた。ムスカリニック刺激によるインスリン分泌に対しIRS-2は抑制的に働いていることが明らかとなり、機序に関し解析をすすめる。MIN6細胞でliraglutideによる膵β細胞増殖作用がカルバコールにより増強されるかをBrdU取り込みにて解析を行う。その増殖経路に関しインスリンシグナルを含め解析を行い、GLP-1と神経伝達物質の相互関係に関して解析を行う。また、マウスにおいても上記で使用したムスカリニックレセプターアゴニストとGLP-1 受容体作動薬liraglutideを同時に投与し膵β細胞量がさらに増加するかを解析する。各種欠損マウスを用い、その増殖経路に関してどの分子が関わっているかを検討する。
該当なし
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Expert Opin Pharmacother
巻: in press ページ: in press
Endocrinology
巻: 154 ページ: 54-64
Cardio-Lipidology
巻: 6 ページ: 80-83