グレリンは、オーファン受容体である成長ホルモン放出促進因子受容体(GHS-R)の内因性リガンドとして胃から精製された新規ペプチドであり、インスリン分泌抑制作用を示す。本研究では、膵島内因性グレリンによるインスリン分泌抑制機構とその病態生理的意義の解明を目的とし、Cre/LoxPシステムを用いて作出した膵島特異的グレリン遺伝子欠損マウスの糖代謝機能解析およびグレリンとインスリン分泌促進ホルモンのGlucagon-like peptide-1 (GLP-1)の相互作用解析を行う。 1.グルカゴンプロモーター制御Creマウス(Glucagon-Creマウス)を作成し、グレリン遺伝子をloxPで挟んだGhrelin-floxマウスとの交配により、膵α細胞特異的グレリンKOマウス(αGhr-KOマウス)を得た。 2.消化管ホルモンのGLP-1は、ラット分離膵島におけるグルコース誘発cAMP産生および膵島インスリン分泌を促進し、グレリン投与はこれらGLP-1作用を抑制した。 3.グレリンは、8.3mMグルコース存在下でのGLP-1刺激およびアデニル酸シクラーゼ活性化薬forskolin刺激によるβ細胞内[Ca2+]i増加作用を濃度依存的に抑制した。一方、グレリン受容体拮抗薬により膵島内因性グレリンの作用を阻害すると、GLP-1刺激による膵島cAMP産生および膵島インスリン分泌作用が増強した。 4.グレリンは、経口糖負荷試験(OGTT)時の血糖上昇を増大させ、血中インスリン分泌を低下させた。一方、グレリンKOマウスでは、OGTTの血糖曲線が下方シフトし、インスリン分泌が亢進していた。 以上より、グレリンはグルコース刺激のみならずGLP-1によるインスリン分泌促進作用に対しても抑制作用を示し、その機序の一つとしてβ細胞内cAMP産生の抑制が明らかになった。膵β細胞におけるグレリンとGLP-1の相互作用によるインスリン分泌を介した血糖調節が示唆される。
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