研究課題/領域番号 |
23591334
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
野原 淳 金沢大学, 医薬保健学総合研究科, 准教授 (50313648)
|
キーワード | 脂質代謝異常 |
研究概要 |
低比重リポ蛋白(LDL)コレステロール低下療法は確立されてきたが,いまだ高比重リポ蛋白(HDL)をいかに治療すべきかが確立されていない.HDL-C上昇だけでは冠疾患予防に役立てられないことが明らかとなり,HDLの組成が冠疾患発症に係わる可能性がある. われわれはLDL-C高値でスタチンが投与されている対象者における冠動脈造影施行患者ではLDL-Cは既に動脈硬化への寄与は低下していること,軽度の糖尿病や慢性腎疾患が大きく寄与している(すなわちスタチン普及後のResidual riskである)ことを確認した. この群において,HDL組成異常,とくにトリグリセライドを多く含む(TG-rich)HDLがこのLDL低下療法後のResidual riskを良く反映しており,バイオマーカーとして有用であることを見いだした.すなわち,耐糖能障害および糖尿病,慢性腎疾患においてこれらの疾患との合併を良く表していることが明らかとなった. また冠疾患におけるCETPの影響が近年注目され,CETP阻害薬の臨床試験が活発に行われているが,TG-rich HDLはCETPと有意に正相関しており,CETP阻害はHDL組成においては有利に作用する可能性が示唆される結果であった. 我々は小胞体ストレスを制御するXBP1遺伝子多型が慢性腎疾患発症に影響を与えていることを見いだした.XBP1は小胞体ストレスの制御だけでは無く,肝細胞においては脂肪合成を適切に行うために必要で有り,また膵臓においては亜インスリン分泌やグルカゴン分泌を制御しているが,われわれはXBP1がインスリン分泌能に有意の影響を与えており,またLDL-TGに影響を与え,さらに冠疾患進展にも有意の影響があることを見いだした.なおこれらの研究は2012年のアメリカ心臓病会議において採択され発表した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HDL組成異常の背景因子の解析は予定通り進行している.HDL組成異常はバイオマーカーとして極めて有望であると考えているが,超遠心法による分析は費用も掛かりまた時間も要しており一般臨床において普及させるには非常に煩雑であるため,簡便なHDL組成の判定法が必要である.その一つの方法としてアガロース電気泳動におけるトリグリセライド染色からのHDL-TG半定量は,超遠心と良好な相関が得られており有用である可能性が示される結果が得られている.同方法であれば即日結果を得ることが可能である.また遺伝的背景の解析において,我々は小胞体ストレスを制御するXBP1に注目しており,その機能多型の解析では,おそらくは小胞体ストレスを介して同変異は慢性腎疾患発症に関与すると考えられる結果を見いだしている.その一方XBP1は肝細胞において適切な脂質合成に必要であることも示されており,また近年は膵β細胞のインスリン分泌,さらに膵α細胞におけるグルカゴン分泌にも重要であることが示されてきた.我々もXBP1がヒトにおいて糖代謝においても非常に重要であり,その一環としてHDL組成に影響している仮説を検証している.また慢性腎疾患はHDL組成異常に関与しており,HDL組成異常を生じるメカニズムに作用している可能性があると推定しておりさらなる解析を進めている.なお連携研究者の野口徹の年度途中の退職があったが,後任として大谷留珠子が当研究室に配属となり本研究の遂行に問題はない.
|
今後の研究の推進方策 |
HDL-Cに影響する遺伝素因が糖尿病発症に影響するかは未だ議論があるが,我々はTG-rich HDL組成異常とその遺伝的背景因子が耐糖能障害の進展を予見できる可能性について前向き研究の集団において解析が遂行中である.またHDL構成蛋白ではApoAIあるいはApoAIIが影響するとする疫学研究があるが,これらのHDL構成アポ蛋白は実際にHDL組成と深いつながりがあることが分かってきた.HDLは均一な集団では無いが,その合成および代謝経路においてVLDLやLDLとの相互作用が重要でありHDL組成の異常に影響していることが理解できる.また横断的研究で認められたHDL組成異常と胆汁酸受容体多型との関連が,同前向き集団においても遺伝的背景として影響をあたえているかを評価する.CETPタンパク量とHDL組成異常にはVLDL過剰の状態において相関を認めているが,LDL過剰の状態である家族性高コレステロール血症(FH)ではVLDLとの相対的な競合のバランスが変化していると推定され,多数のFH患者を用いHDL組成異常の影響を検討する.
|
次年度の研究費の使用計画 |
引き続き臨床的なHDL組成の異常や変化についてさらに深く検討を進めていく.各種疾患や冠疾患の背景因子との関連を検討していく.そのためHDLを含むリポ蛋白は各種の解析により多面的に解析を進めていく必要がある.具体的には超遠心や電気泳動法,HPLCによるリポ蛋白解析の各種試薬や消耗品が必要になる.さらに臨床的に活用していくために必要な簡便なHDL組成異常の検出方法の確立を行っていく.またHDLの機能的異常に影響を及ぼす遺伝的背景の解析も引き続き遂行していく.HDL組成に影響をおよぼしている可能性の高い遺伝子の解析には引き続きライトスキャナーやサンガー法によるシークエンス,制限酵素を用いたスクリーニングなども行っていく.これらにも必要な各種試薬および消耗品費が必要である.なお連携研究者の野口徹のH24年度途中の退職があったため共同研究が当初予定より遅れたため繰越金が生じたが,後任としてH25年度に大谷留珠子が当研究室に配属となり本年度中に遂行可能となり研究計画の遂行に問題はない.また当該研究遂行により得られた知見を社会に還元していくため国際学会発表および欧文論文発表においても研究費が有効に使用される予定である.
|