研究課題
潜在性甲状腺機能低下症は、血清遊離T4値が基準値内であるが、軽度血清TSH値が上昇した病態でメタ解析などにより心脳血管障害の発症危険因子として注目されている。これまで潜在性甲状腺機能低下症は、甲状腺自体の障害によるものばかりであったが、私たちの多数例の下垂体腫瘍の検討から「潜在性中枢性甲状腺機能低下症」という新たな病態が存在する 可能性を発見した。本研究では、新たな疾患概念「潜在性中枢性甲状腺機能低下症」を確立するため、さらに症例数を増加させ詳細を検討を進めている。一方、動物モデルとしてTRHノックアウトマウスのホモ接合体は、甲状腺 ホルモンが約60%の軽度の甲状腺機能低下症になるが、血清TSH値は生物学的活性が低下しむしろ軽度増加することが判明している 。本年度は野性型、TRHKOホモ接合体並びにヘテロ接合体の下垂体よりmRNAを抽出し、マイクロアレイ法とK-means法解析により網羅的 にTRH欠損状態の程度により変化する遺伝子群について検討し、NR4A1(Nur77)がTRH依存性の遺伝子であり、さらにNR4A1はTSHβ遺伝子をin vitroの実験系で、プロモーター領域にリクルートされることにより転写活性を増強していることが判明した。従って、TRHのTSHβ遺伝子制御機構には、これまでの報告にあるpit1やGATA2 といった転写因子群に加えて、NR4A1が重要な役割をしていることが判明し、NR4A1異常による中枢性甲状腺機能低下症という病態も存在する可能性がある。
2: おおむね順調に進展している
臨床疫学的データーベースでは下垂体腫瘍の術前術後の甲状腺ホルモン値、TSH値、腫瘍の大きさ、病理像などについてさらに追加した。また、基礎的な検討のTRHノックアウトマウスを用いた検討では、TRHの下垂体TSHβ遺伝子制御にNR4A1が関与することを確立し報告した。
昨年度は動物の繁殖が悪く、動物実験にかかる経費に残額が生じた。今年度にそのプロジェクトもあわせ推進して行く予定である。また、臨床疫学的データーベースの追加症例については症例数をさらに増やし、病態の確立を目指す。TRHノックアウトマウスを用いた検討 では、より生理的な状態での絶食負荷などによる血中甲状腺ホルモンやTSHならびにTSHβmRNAレベルへの影響などを検討する。
上記の研究計画のため、疫学的データーを解析するためのコンピュータープログラムのアップデイトや動物関連、DNA関連、免疫組織化学関連の消耗品費として使用する。
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PLoS One
巻: 7 ページ: e40437
10.1371/journal.pone.0040437