研究課題
多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1型)は、下垂体、副甲状腺、膵内分泌腺などに多発性の腫瘍発症を認める遺伝性腫瘍症候群である。その原因遺伝子のMEN1は癌抑制遺伝子であるが、遺伝子変異が腫瘍発症を引き起こす詳細な機構は不明である。私はMEN1遺伝子の蛋白産物meninに結合する転写因子JunDに着目した。JunDは、細胞調節因子群のAP-1ファミリーに属し、細胞増殖抑制機能を有するが、meninはJunDに直接結合し、その転写活性化を抑制することが報告されてきた。今回MEN1型の腫瘍発症機構におけるmenin/JunD共役の機能を解明するため、モデルマウスを用いた実験を行った。Men1変異マウス、JunD変異マウスはそれぞれ既に樹立されており、今回Men1/JunDダブル変異マウス(Men1+/-; JunD-/-マウス)を作製し、Men1+/-マウス、野生型マウスと比較解析した。上記3群のマウス雄約10匹ずつを6ヶ月齢で安楽死させ、下垂体、膵臓、副腎、性腺を単離し各組織での腫瘍発生を観察した。その結果、野生型マウスでは膵内分泌腺に腫瘍発症を認めなかったが、Men1+/-マウスでは約40%に膵β細胞の過形成を認めた。またMen1/JunDダブル変異マウスでは、約70%に膵β細胞の過形成を認め、更に30%に腺腫を認めた。下垂体、副腎、性腺では3群間に有意差なかった。MEN1型の膵内分泌腫瘍発症機構において、menin/JunD共役が腫瘍の早期発症に関与していることがin-vivoレベルで示された。JunDの有無によって発現が制御される新規遺伝子(群)を同定する目的で、Men1+/-マウスおよびMen1/JunDダブル変異マウスのそれぞれの膵組織からコラゲネーゼ法によって膵ランゲルハンス島を単離し、total RNAを抽出した。これらの結果を各種学会等で発表した。
2: おおむね順調に進展している
多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1型)における、標的組織特異的な腫瘍発症のメカニズムを解明する目的で、Men1/JunDダブル変異マウスの樹立作製を行い、更に予定通りに6ヶ月齢での解剖、病理解析を施行できた。私の想定した仮説通り、MEN1型の責任遺伝子であるMEN1遺伝子/蛋白産物meninと、その共役因子である転写因子JunDの結合が膵内分泌腫瘍の発症機構において極めて重要であることがin-vivoレベルで示された。次年度以降は、詳細な分子機構の解明に向けた研究が施行される。
平成24年度以降は、より高齢(12ヶ月齢、18ヶ月齢)のマウスでの腫瘍発症の病理学的解析が引き続き施行される。6ヶ月齢で施行した実験と同様に、下垂体、膵臓、副腎、性腺における詳細な腫瘍発症の確認と、それぞれの臓器におけるホルモン過剰産生の有無を組織の免疫染色法や、マウス血清を用いてのRIA法での血清ホルモン値測定など行う。またmenin-JunDのinteractionを介した腫瘍発症機構の分子メカニズムの解明を推進する。具体的には、Men1変異マウス(Men1+/-)、Men1/JunDダブル変異マウスそれぞれより既に単離してある膵ランゲルハンス島由来のtotal RNAを用いたマイクロアレイ解析を行う。解析結果によってはパスウェイ解析を検討し、JunDの有無によって発現が制御される、MEN1遺伝子関連遺伝子(群)を同定する。全く新規の遺伝子が発見された場合にはクローニングを行い解析する。
遺伝子変異マウスを12ヶ月齢、18ヶ月齢で解剖するため、相当数のマウスの維持・管理が必要となる。期間中、飼育代、毎回のジェノタイプ判定のための試薬代(PCR関連試薬)まど一定の費用が必要となる。マイクロアレイ解析については、ファルマフロンティア社に委託するが、基本解析費、サンプル調整費用、クオリティー検査費用が必要となり、さらに解析結果によってはパスウェイ解析の追加が必要となる。消耗品については、リアルタイムPCR用の配列特異的蛍光プローブ(TaqMan Probe)代や、Taq polymeraseを含むPCRに必要な消耗品一式、Luciferase asay用のルシフェリン代、各種抗体購入費、免疫染色に必要な試薬、in situ hybrizationに必要な試薬やアイソトープの購入費が形状される。
すべて 2011
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