研究課題/領域番号 |
23591346
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
小澤 厚志 群馬大学, 医学部, 助教 (10573496)
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キーワード | 内分泌腫瘍 / 遺伝性腫瘍症 / 癌抑制遺伝子 / 多発性内分泌腫瘍症1型 / 膵内分泌腫瘍 |
研究概要 |
多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1型)は、下垂体・副甲状腺・膵内分泌腺に多発性の腫瘍を認める常染色体優性遺伝疾患であり、原因遺伝子であるMEN1は癌抑制遺伝子であるが、詳細な腫瘍発症機構は不明である。JunDは、細胞調節因子のAP-1ファミリーに属し、MEN1の翻訳産物meninにより転写活性が抑制される。私達は、MEN1型の腫瘍発症機構におけるmenin-JunD複合体の機能解明のためMen1とJunDのダブル変異マウス(Men1+/-JunD-/-)を樹立し解析した。昨年までに既に、上記マウスの6月齢までの解剖、病理解析を行い、Men1+/-で約40%に膵ラ氏島の過形成を認め、Men1+/-JunD-/-では約70%に過形成、更に30%に腺腫を認めることを報告した。今回、更に上記マウスを各群とも12-15匹、それぞれ12月齢、18月齢で解剖・病理解析を施行したところ野生型マウスでは下垂体、膵ラ氏島に18月齢でも腫瘍発症を認めなかったが、Men1+/-では12月齢で下垂体、膵ラ氏島にそれぞれ22%, 44%の腫瘍(腺腫)発症を認め、18月齢では27%, 72%であった。一方でMen1+/-JunD-/-では下垂体、膵ラ氏島の腫瘍発症頻度は12月齢で22%, 75%、18月齢では33%, 90%であり、膵ラ氏島では腺腫のみならず癌の発症も認めた。JunDの欠失により、膵ラ氏島では明らかに腫瘍発症頻度と悪性度が高くなった。この現象の詳細な分子メカニズム解明のためにマウスから単離した膵ラ氏島のtotal RNAを用いてmicro array解析を施行し、マウスの膵ラ氏島細胞にて特に発現が増強している遺伝子、逆に発現が著しく減弱している遺伝子を腫瘍発症に関わる新たな因子群の候補として同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1型)における、標的組織特異的な腫瘍発症機構におけるMEN1遺伝子の蛋白産物であるmeninと細胞調節因子であるJunDとの共役作用の生体内での役割を解析するために、Men1+/-JunD-/-ダブル変異マウスの作製・樹立に成功し、元より保持していたMen1+/-マウスとの比較検討が可能となった。 既に、予定通り一定数のMen1+/-マウス、Men1+/-JunD-/-ダブル変異マウスを6月齢、12月齢、18月齢において安楽死させ解剖し、MEN1型の標的組織である下垂体、膵内分泌腺の詳細な病理解析と2群間の比較を行った。 経時的な病理解析の結果から、JunDはMEN1型の膵ラ氏島の腫瘍発症機構において、早期の腫瘍発症及び、腫瘍の悪性度に大きく関与していることが生体内で初めて証明された。更なる詳細な分子メカニズムの解明のため、マウスより単離した膵ラ氏島のtotal RNAを用いてマイクロアレイ解析を施行し、膵ラ氏島の腫瘍発症に関与する新規因子として、幾つかの候補遺伝子群を同定し得た。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降は、MEN1型の腫瘍発症過程においてmenin-JunDの共役作用によって誘導される新規候補遺伝子(群)の解析を中心に研究を推進していく。 既にパスウェイ解析を依頼し、候補遺伝子の絞り込みを行っている。その結果に基づいて、実際の膵腫瘍組織を用いて遺伝子の発現解析を行う。 具体的な方法としては、膵組織より単離したtotal RNAを用いてのqPCR法、及び組織切片を用いての免疫染色法を予定している。膵組織における候補遺伝子の発現の強弱が確認されれば、候補遺伝子のサブクローニングを行い、培養細胞株を用いて細胞の分化増殖能、アポプトーシスなどのアッセイを施行し、遺伝子機能の確認を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
遺伝子変異マウスの維持・管理のため飼育代、ジェノタイプ判定のための試薬代(PCR関連試薬)など一定の費用が必要となる。パスウェイ解析については、ファルマフロンティア社に委託しており、基本解析費が必要となる。消耗品については、リアルタイムPCR用の配列特異的蛍光プローブ(TaqMan Probe) 代や、Taq polymeraseを含むPCRに必要な消耗品一式、ルシフェレースアッセイ用のルシフェリン代、各種抗体購入費用、免疫染色に必要な試薬やアイソトープ購入費用が計上される。
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