研究課題/領域番号 |
23591347
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
佐藤 隆史 群馬大学, 生体調節研究所, 准教授 (70344934)
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キーワード | 慢性炎症 / 核内受容体 / 小胞体ストレス |
研究概要 |
近年、生活習慣病の背景にある慢性炎症病態制御におけるステロイドホルモン作用の重要性が指摘されているが、その分子メカニズムは不明である。本研究では、慢性炎症におけるアンドロゲン受容体(AR)やグルココルチコイド受容体(GR)などの核内受容体の機能を解析することを目的として研究行った。現在までの研究の結果、まず一つ目として慢性炎症を持続させる小胞体ストレスの制御に核内受容体の関与する可能性を明らかにした。特にARは、小胞体ストレスを制御する転写因子と結合し、その転写を増強することが分かった。この作用はマウス個体レベルでも確認され、AR欠損(KO)マウスの肝臓や脂肪組織で小胞体ストレス制御因子の発現低下することと、ARKOマウスで見られる代謝異常が小胞体ストレス緩和する薬剤の投与で一部改善されることを見出した。このようにアンドロゲン作用と小胞体ストレス制御とのクロストークの可能性が示唆された。二つ目として、ステロイドホルモンが慢性炎症自体を制御するか否かを解析するため、マクロファージと脂肪細胞の共培養による慢性炎症のモデルを構築し、様々なホルモンの効果を検討した。その結果、アンドロゲンが、種々の慢性炎症疾患発症に関与するサイトカインであるMCP-1の発現を顕著に抑制することを見出した。以上、本研究では特に男性ホルモンであるアンドロゲンが小胞体ストレス応答やサイトカイン発現抑制を介して慢性炎症を制御する可能性が示唆された。このことがアンドロゲンの分泌低下による生活習慣病の発症の一端を担う可能性を明らかにするべくARKOマウスを用いた更なる解析を進めている。また、現在までにエストロゲン受容体(ER)とグルココルチコイド受容体 (GR) の肝臓などの組織に特異的なKOマウスを交配により作成した。現在これらを用いて個体レベルでの慢性炎症と核内受容体の機能の解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性炎症病態におけるステロイドホルモン作用機序解明の最も重要な糸口は、慢性炎症を基盤とする病態における未知の核内受容体の機能の解明と考えられる。そこで、本研究では、目的とする研究の方向性として以下の2つのアプローチを展開している。一つ目としては、核内受容体ノックアウトマウスの慢性炎症病態と考えられる表現型の解析から、核内受容体の新たな作用点を明確にすることである。そこで慢性炎症の背景にあるシグナル伝達系に着目し解析を行った結果、ARKOマウス解析から小胞体ストレス制御の異常との関連が明らかになり、両者の間のクロストークを見出した。現在このクロストークの解析はARとATF6転写因子間の相互作用の破綻によるものとで説明づける分子メカニズムを突き止めるまで進行している。二つ目は、慢性炎症慢性炎症のモデル系の構築し、この炎症刺激下の標的遺伝子の同定することである。本研究では慢性炎症の解析が可能なin vitro系の実験系を構築し、アンドロゲン、エストロゲン、グルココルチコイドなど種々のホルモンの作用を検討している。現在までにこの系を用いることで、新たにアンドロゲンがMCP-1の発現を抑制することが見出され、この抑制のメカニズムの解析も進んでいる。 以上の理由から、本課題において目的としていた研究はおおむね順調に進んだと考えている。次年度はこのメカニズムを更に詳細に解析するとともに、実際に慢性炎症の病態の制御におけるステロイドホルモン標的遺伝子の同定を試みる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、核内受容体を介した各種ステロイドホルモンの作用点を詳細に解明するため、各核内受容体のKOマウスの慢性炎症病態の解析、ならびに現在までに構築したin vitroで慢性炎症系を用いてマイクロアレイなどによる各種ホルモンで制御を受ける標的遺伝子の探索を行う。また、ホルモン作用破綻による炎症モデルマウスとしては、抗炎症ホルモンであるグルココルチコイドの受容体(GR)のマクロファージや血管内皮細胞などに組織特異的なKOマウスを作成したため、これらのマウスでの慢性炎症病態を解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用計画は以下の通り。 1.実験動物(マウス)の維持、解析に要する費用 2.細胞培養に用いる培地、リアルタイムPCR試薬などの消耗品費 3.Chip assay,マイクロアレイなどの遺伝子発現解析に要する費用 4.国内における研究発表を行う際の出張費
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