研究課題/領域番号 |
23591351
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村田 善晴 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (80174308)
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研究分担者 |
林 良敬 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (80420363)
高岸 芳子 名古屋大学, 環境医学研究所, 助教 (50024659)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 転写因子 / ARX / グルカゴン / 膵島 / α細胞 / 過形成 |
研究概要 |
我々が独自に作製したグルカゴン遺伝子ノックアウトマウス(Gcg-/-)では、膵島α細胞の著明な過形成が認められる。このGcg-/-の膵島では転写因子であるARXの発現増加が認められたため、本研究は膵および腸管内分泌細胞の分化・機能に及ぼすARXの役割をARXの遺伝子改変マウスとGcg-/-を交配して得られた2重変異マウスを用いて解明することを目的とした。平成23年度では2種類のARX遺伝子改変マウス、即ちヒトの症例で認められた変異をノックインしたp355l(pl)マウスとgcgの7回繰り返し配列が挿入されたgcg7(g7)ノックインマウスの2系統を入手し、Gcg-/-との交配実験を行った。その結果、グルカゴン遺伝子とARX遺伝子に関する2重変異マウス、すなわちGcg-/-ARXpl/YおよびGcg-/-ARXg7/Y(ARX遺伝子はX染色体上にあるため、雄性マウスはそれぞれARXpl/YおよびARXg7/Yと表記)の作製に成功し、その表現型を解析した。g7導入マウスはARXX/Yに比し、体重減少と血糖値の低下が有意に観察されたが、ARXpl/Yの体重と血糖値はARXX/Yと差がなかった。この傾向はGcg-/-とのダブルミュータントマウスでも同様で、Gcg-/-ARXg7/Yでは体重と血糖値の有意な減少が認められたものの、Gcg-/-ARXpl/Yの体重と血糖値はGcg-/-ARXX/Yと同じレベルであった。次に、これら変異導入マウスの膵臓を取り出し、HE染色などによる形態学的解析を行ったところ、Gcg-/-で観察された膵島の数と面積の増加がGcg-/-ARXpl/YおよびGcg-/-ARXg7/YではGcg-/-の対照となるGcg+/-の膵臓と同じ水準となった。したがって、Gcg-/-に於けるα細胞の過形成にはARX遺伝子発現増加が強く関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画でもっとも重要な部分であるグルカゴン遺伝子ノックアウトマウスと2種類のARX変異マウス、すなわち即ちヒトの症例で認められた変異をノックインしたp355l(pl)マウスとgcgの7回繰り返し配列が挿入されたgcg7(g7)ノックインマウスとの交配により、2系統のダブルミュータントマウスを得ることに本年度成功した。以後もこの交配実験は支障なく実施されており、ダブルミュータントマウスおよびこれらの対照となるコントロールマウスは継続的に入手できる状況にある。これら変異マウスの表現型の解析のうち、生後の体重変化や血糖値などの測定は終了した。一方、膵臓の形態学的解析は本研究所に設置されているスライドスキャナーを駆使して実施し、膵島の数や総面積を算出することに成功した。その結果、グルカゴン遺伝子ノックアウトマウスで観察された膵島の数の増加と総面積の増大は変異ARXの導入によりキャンセルされることが明らかとなり、グルカゴン遺伝子ノックアウトマウスにおける膵島の過形成にはARX遺伝子の過剰発現が関与していることを示唆する結果を得ることができた。一方、免疫組織化学を用いて、膵島の過形成はどの細胞群の増加により観察されるかを明らかにすることも平成23年度研究計画に盛り込んでいたが、現在解析途中であり、結論を提示する段階には至っていない。したがって、現在までの達成度は「おおむね順調に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度中にグルカゴン遺伝子ノックアウトマウスでは膵島の数と面積の増大が認められること、およびこの膵島の過形成は2系統のARX変異を導入することによりキャンセルされることが明らかとなった。膵島には主としてグルカゴンを産生するα細胞およびインスリンを分泌するβ細胞からなるが、グルカゴン遺伝子ノックアウトによる膵島の過形成には如何なる細胞群の過形成が関与しているか、またARX変異の導入により消退する細胞群は何かを免疫組織化学を用いて明らかにする必要がある。平成23年度中から実施している本解析を平成24年度以降も継続し、この点に関する結論を導き出す予定である。一方、今後はこのような形態学的変化が糖代謝にどのような影響を与えるかを、ブドウ糖負荷試験などにより検討することを予定している。さらに、当研究所にはマウスの飲水量・食餌摂取量、行動料、酸素消費量、および二酸化炭素排出量などを高い精度で解析することが可能な包括的実験動物モニタリングシステム(CLAMS)およびマウス脂肪組織の蓄積状況を解剖することなくリアルタイムで測定可能は実験動物用核磁気共鳴イメージングシステム(MRI)が設置されている。そこで、ARX変異マウスの代謝状態をCLAMSを用いて測定し、かつ脂肪組織の分布をMRIを用いて計測してARXの生体への影響を明らかにしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
免疫組織化学研究のための抗体や関連試薬を購入マウスの飼育料、CLAMSおよびMRIの使用料その他の実験に必要な消耗品の購入英語論文の校閲費用
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