研究課題/領域番号 |
23591351
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
村田 善晴 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (80174308)
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研究分担者 |
林 良敬 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (80420363)
高岸 芳子 名古屋大学, 環境医学研究所, 助教 (50024659)
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キーワード | 転写因子 / ARX / グルカゴン / 膵島 / α細胞 / 過形成 |
研究概要 |
Arx 遺伝子(the aristaless-related homeobox gene)によってコードされる転写因子ARXは、膵島の内分泌細胞の分化に決定的な影響を与えることが知られており、事実、Arx 遺伝子のノックアウトはα細胞の減少とβおよびδ細胞の増加をもたらす。しかし、その調節機構は未だ解明されていない。一方、我々が独自に作製し得たグルカゴン遺伝子ノックアウトマウス(GcgKO)の膵島では、Arx遺伝子の発現増加とα細胞の過形成が認められた。そこで、本研究では、GcgKOとArx遺伝子改変マウスを交配することにより、ARXが膵島および、同じくARXを発現している腸管内分泌細胞の分化・機能にどのような役割を持つかを明らかにすることを目的とした。このため、ヒトの症例で認められたArx変異を導入した2種類のノックインマウス、すなわちArxpl/Y及びArxg7/YとGCGKOとを交配し、グルカゴン-Arx遺伝子の2重変異マウスを作製し、平成24年度では膵臓の形態学的解析を中心とした表現型の解析を実施した。その結果、GCGKOで観察された膵臓あたりの膵島数や膵島面積の増加がArxpl/Y及びArxg7/Y変異の導入によりコントロールであるGCG+/-(ヘテロマウス)と同レベルに減少することを認めた。また、免疫組織化学によりα細胞であることを示すGFP(Green Fluorescent Protein)陽性細胞の数がGCGKOでは著明に増加したが、Arxpl変異の導入によりGCG+/-と同程度の数に減少した。一方、Arxg7/Y-GCGKOマウスではα細胞はGCG+/-よりさらに減少した。したがって、GCGKOにおける膵島の数・面積の増加とα細胞の過形成にはARXが重要な役割を演じていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は平成23年度に作製したグルカゴン-Arx遺伝子の2重変異(ダブルミュータント)マウスを用いて、グルカゴンノックアウトマウスにおける膵島の形態変化が2種類のARX変異(Arxpl/Y及びArxg7/Y)の導入により如何に修飾されるかを検討することを目的とした。その結果、グルカゴンノックアウトマウスで観察された1膵臓あたりの膵島数や膵島面積の増加が2種類のARX変異のいずれかの導入によりコントロールマウスと同レベルあるいはそれ以下に減少することを認めた。この減少の程度は、ARXの機能をより強く障害するArx7/Y変異を導入したマウスにおいてより著明であったことから、ARXは、グルカゴン遺伝子のノックアウトにより生ずる膵島α細胞の過形成に必須な役割を演じていることを明らかにできた。また、免疫組織化学において、ARX変異の導入はグルカゴンノックアウトにより増大する膵島α細胞の数には影響を及ぼすものの、インスリンを産生するβ細胞の数には影響しないことも明らかにできた。したがって、平成24年度には当初計画していた実験計画をおおむね達成することができたと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度までにARX変異の導入により、グルカゴンノックアウトにおける膵島α細胞の過形成に及ぼすARXの役割に関する形態学的解析はほぼ達成できた。一方、腸管内分泌細胞もARXを発現しているが、ARX変異の導入が腸管内分泌細胞の形態や機能にどのような影響を及ぼすかに関してはまだ解析が済んでいない。従って、今後は、これまでに用いてきたArx-グルカゴン遺伝子改変マウスの系統を維持し、これら遺伝子改変マウスに対し腸管内分泌細胞の形態学的解析を行う。また、ARX変異の導入が糖代謝にどのような影響を及ぼすかを個体レベルで検討する予定である。そして、以上の成果を論文として発表したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
免疫組織化学のための抗体や関連試薬の購入 マウスの飼育料、MRIの使用料 その他の実験に必要な消耗品の購入 論文の掲載料・印刷代
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