研究課題/領域番号 |
23591356
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
野村 政壽 九州大学, 大学病院, 講師 (30315080)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | ミトコンドリアダイナミクス / インスリン分泌 / インスリン抵抗性 / 臓器間ネットワーク |
研究概要 |
ミトコンドリアダイナミクスの糖代謝恒常性維持における役割解明を目標に、1)膵β細胞からのインスリン分泌、膵β細胞維持機構、2)インスリン抵抗性発症機構におけるDrp1の機能解析を行った。1)膵β細胞からのインスリン分泌、膵β細胞維持機構:Drp1floxマウスとRip-CREマウスの交配により膵β細胞特異的Drp1欠損マウス(Drp1βKO)を作製した。Drp1βKOマウスは膵ラ氏島に形態学的異常は認めなかったが、グルコース応答性インスリン分泌の低下を認め、耐糖能異常を認めた。この結果を受け、膵β細胞におけるグルコース刺激時の細胞内Ca2+濃度について、Fluo4を用いて解析を行ったところ、DRP1βKOではグルコース刺激時の細胞内Ca2+濃度の上昇遅延を認めた単離ラ氏島を用い、細胞内Ca濃度上昇の障害がその一つの原因と考えられた。さらに耐糖能障害は週令とともに悪化し、β細胞保持においてもミトコンドリアダイナミクスが重要な役割を担っている可能性が示唆された。2)インスリン抵抗性発症機構:Drp1floxマウスとCkmm-CREマウスの交配により筋細胞特異的Drp1欠損マウス(Drp1MuKO)を作製した。しかしながらDrp1MuKOマウスは出生後9日前後で全例死亡した。骨格筋、心筋の組織学的検討を行ったが、現時点でその原因の詳細は不明であるが、心室の軽度拡大を認め、心不全によるものと考えられた。したがって、筋肉におけるインスリン抵抗性等の検討を加えることが出来なかった。そこで、筋肉以外の組織でインスリン抵抗性を規定している肝臓に焦点をあて、Drp1floxマウスとAlb-CREマウスの交配により肝細胞特異的Drp1欠損マウス(Drp1LiKO)を作製した。驚くべきことにDrp1LiKOマウスは耐糖能が著明に改善することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
I.膵β細胞特異的Drp1欠損マウスの解析:ミトコンドリアダイナミクスの障害により、細胞内Ca動態に影響がみられ、細胞内Ca2+のoscillationが消失し、グルコース応答性インスリン分泌不全となることを明らかにした。次に膵β細胞維持機構との関連では、週令が進むにつれ、Drp1βKOマウスで膵ラ氏島サイズが著明に肥大することを明らかにした。BrdU陽性細胞数の増加、TUNEL陽性細胞数の減少がみられ、Drp1が膵β細胞数を規定していることを示した。次に単離ラ氏島を用いて、DNAアレイ解析を行い、Drp1欠損に伴う遺伝子発現の変化を網羅的に解析した。現在そのannotationを行っている。II.インスリン抵抗性獲得機構:筋細胞特異的Drp1欠損マウスは生後9日で致死となり、インスリン抵抗性機序を解析が不可能であったが、直ちに肝細胞特異的Drp1欠損マウスを作製した。通常食飼育下ではDrp1LiKOに異常は見られなかったが、高カロリー・高脂肪食(HFD)を負荷したところ、Drp1LiKOは体重増加がコントロールと比較して有意に少なく、食事性肥満に抵抗性であることが明らかになった。次に肝臓の組織学的評価を行ったところ肝臓組織内の脂肪沈着、肝細胞の風船様腫大、肝組織内の炎症細胞の浸潤が見られ、Nash様の所見を呈していた。一方驚くべきことに糖負荷試験では耐糖能は著明に改善し、インスリン抵抗性が改善していた。Drp1MuKOが予想に反して生後すぐに致死となったが、インスリン抵抗性獲得機構におけるミトコンドリアダイナミクスの役割の解明を、肝臓を標的臓器として遂行していくことが出来た。以上のように、IIのインスリン抵抗性獲得機序の研究で筋組織では解析が出来なかったものの、肝臓にて予想以上の進展が見られた。
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今後の研究の推進方策 |
I.膵β細胞特異的Drp1欠損マウスの解析:当初の予定どおりに以下の研究計画を実行する。得られた単離ラ氏島での遺伝子発現プロファイルの結果からDrp1標的遺伝子の同定を試みる。膵β細胞が細胞外環境(血糖、脂質値)の変化に即応する分子機構を明らかにする。単離ラ氏島を用い、リアルタイムにミトコンドリア動態を観察し、細胞外環境を様々に変化させた時の変化を捉え、その際にDrp1標的遺伝子群の発現をPCR法により定量的に評価する。II.インスリン抵抗性発症機構:高脂肪食負荷Drp1LiKOマウスの脂肪組織、筋肉、肝臓におけるインスリンシグナルを解析。インスリン負荷によるIRS、AKTリン酸化状態を調べる。肝臓はエネルギー・糖代謝の統御にとって重要なシグナルを発信していることが明らかとなっている。脂肪肝になるとエネルギー過剰のシグナルが神経系を介して中枢へ伝えられ、中枢から脂肪、筋肉などの末梢臓器のエネルギー代謝を亢進させる。臓器間代謝情報ネットワークにおける肝ミトコンドリアダイナミクスの役割を明らかにする。次に、成獣のDrp1flox/floxマウスを用い、Adenno-CREによる一過性の肝臓でのDrp1ノックアウトを行い、高脂肪食負荷に伴う肝組織の評価、個体レベルでの糖、脂質代謝評価を行う。一過性・後天性のDrp1ノックアウトによっても同様に全身のエネルギー代謝亢進、インスリン抵抗性改善効果を確認する。最終的には臨床応用を念頭に置き、siRNA、dnRNAによる肝臓でのDrp1ノックダウン、機能阻害を試み、同様に全身のエネルギー代謝亢進、インスリン抵抗性改善効果を評価する。II.インスリン抵抗性獲得機構の解明では臨床応用を念頭に置き、当初の予定以上の研究を進めて行く。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後の研究計画で述べたDrp1標的遺伝子の膵β細胞、および肝臓での発現プロファイルを調べる目的にて、高精度のPCR装置を直ちに購入する。当初初年度での購入計画であったが、単離ラ氏島を用いたDNAアレイの結果が前年度末に出揃ったことから、本年度直ちに購入を行う。その他の研究費はすべて消耗品に充てる。
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