研究課題
鉄が生体に及ぼす影響をとらえる上で重要な形態として血中に存在する非トランスフェリン結合鉄(non-transferrin-bound iron:NTBI)が挙げられる。しかし、これまで日本国内でこのNTBIを測定するためのシステムを構築し、臨床検体を用いて測定した報告はない。そこで、NTBI測定方法のゴールド・スタンダードであるnon-metal HPLCシステムを導入し、種々改善を行い検出感度の向上と安定した測定システムの構築に取り組んできた。その結果、本計画の同時多検体測定を可能とする革新的NTBI測定法開発のための比較対象としてこの改良型 non-metal HPLCシステムを適応することが可能であると判断することができる。もう一つの問題は、測定系に用いる既存のキレート剤はNTBIに加えて生体に有効なトランスフェリン結合鉄をも僅かではあるがスカベンジするためNTBI測定系での使用が問題視されてきた。そこでトランスフェリン結合鉄を奪取することなく、NTBIのみを選択的にキレート可能な反応基を選別し、その反応基を導入したクロマトグラフ用樹脂剤の開発を進めてきた。本来クロマトグラフ用樹脂剤は水親和性が高いが、その構造・利用目的から不溶性であり、鉄をキレートした後もその不溶性は変化することなく、鉄イオンをキレートしたクロマトグラフ用樹脂剤は、遠心操作などにより容易に分離することができる点は大きな特徴といえる。この利点は、今後の固相化剤、固相化方法の開発に繋がるものである。一方でハイスルプット測定システム開発の一環として、自動分析装置対応のNTBI測定試薬の開発と臨床検査試薬としての実用化を進めており、NTBI測定試薬としての基礎性能評価が終了した。
2: おおむね順調に進展している
不溶性高分子鉄キレート担体として、多糖類系多孔質粒状キトサンゲル:トキパールを選択した。このゲルは極めて理想的なマクロポーラス構造により強度と物質拡散性を兼ね備えており、キトサン由来の高親水性は試料からの鉄イオンのスカベンジに対して有意に働くものと考えられる。この担体にNTBIのみを選択的にキレート可能な反応基を導入し、室温、30分間反応させた条件において血清中のNTBIを吸収することが可能であることが確認できた。一方、生体にとって必要なトランスフェリン結合鉄はほとんど奪取しないことも確認された。さらに並行して、他の金属イオンが存在する血清のような試料に対して、NTBI由来鉄イオンのみを選択的に定量するハイスルプットな測定系の構築も望まれており、発色基質を選択することで自動分析装置対応が可能であることが確認された。NTBI測定試薬としての基礎性能評価が終了し、臨床検査試薬としての実用化を進めているところである。
NTBI測定における多検体同時測定システムの開発には、マルチプル測定用基材(マイクロ・プレートなど)への鉄キレート剤の確実な固定が重要な点となる。今回作製したNTBIのみを選択的にキレート可能な反応基を導入したクロマトグラフ用樹脂剤の適応を探るとともに、より操作工程の少ないハイスルプット測定システムのプロト・タイプを作製する。
該当なし。
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