研究課題
レトロウイルスを用いたiPS細胞の樹立では外来遺伝子がゲノムに挿入されてしまい、それにより腫瘍細胞の特性が変化してしまう可能性があるため、ゲノムに挿入されずにiPS細胞の樹立が可能であるepisomal vecterの系を用いてCML患者細胞由来iPS細胞(以下CML-iPS細胞と表記)に加え、骨髄線維症(MF)や本態性血小板血症(ET)などの骨髄増殖性疾患及び慢性骨髄単球性白血病(CMMoL)においてiPS細胞化に成功した。他の造血器腫瘍においても同様な方法によりiPS細胞の樹立を試みたが、現状では急性白血病症例においてはiPS細胞化に成功していない。造血器腫瘍細胞由来の場合は、さまざまなエピゲノムの変化により正常体細胞と比較してiPS細胞の樹立が困難である可能性があると考えられ、iPS細胞の樹立を促進することが知られている小分子化合物(バルプロ酸や酪酸など)の添加やshRNAによるp53経路の阻害を試みたが、依然として樹立には至っていない。さらにリプログラミングを促進する遺伝子としてLIN28, Glis1などの遺伝子群の追加導入によりiPS細胞の樹立を試みたが、不完全にリプログラミングされたコロニーを得るに留まった。そこで来年度は白血病の原因となる遺伝子異常そのものが、iPS細胞化を妨げる可能性もあるので、既知の遺伝子異常を持つものに関しては、それらをレンチウィルスによる誘導的なshRNAを用いて一過性に抑制することによりiPS細胞化を試みる。このようにして、病型に応じた最適なリプログラミング法を確立することを目指す。その他遺伝性の血液疾患であるRunx1遺伝子異常による家族性血小板異常症の患者の皮膚細胞からiPS細胞の樹立に成功した。
2: おおむね順調に進展している
樹立したiPS細胞から白血病幹細胞が含まれると思われるCD34+CD38-CD90+の分画を分化誘導後にFACSにてソートした。慢性骨髄性白血病細胞由来のiPS細胞由来の上記細胞分画はimatinibに対して抵抗性を示しCML幹細胞の特性を示した。一方分化した細胞集団はimatinibに対して反応性が認められた。このようにiPS細胞から白血病幹細胞の性質を持つ細胞集団の誘導に成功している。
慢性骨髄性白血病以外のiPS細胞からも白血病幹細胞の性質を持つ細胞集団の誘導を行い、白血病幹細胞の分子メカニズムについての検討を行う。また誘導した血液細胞はNOD/SCIDなどの免疫不全マウスへの移植実験を行い、造血細胞の再構築、特に白血病の再現が可能か検証を行う。
現在までにiPS細胞化が達成されていない急性白血病や骨髄異形成症候群とともに、固形癌からもiPS細胞の樹立を試み、癌幹細胞の同定を目指す。
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