研究課題/領域番号 |
23591371
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
服部 浩一 東京大学, 医科学研究所, 特任准教授 (10360116)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 癌 / 酵素 / 生体分子 / 生理活性 / 発生・分化 |
研究概要 |
本研究では、白血病・リンパ腫病態における血液凝固・線維素溶解系(線溶系)亢進の意義とその機序を明らかにすることを主目的とし、白血病・リンパ腫細胞に対し存在する病的な細胞外微小環境―「悪性ニッチ」の本体そしてその形成機構の解明を主目的としている。今年度の研究で、代表者らは、白血病・リンパ腫細胞の微小環境―ニッチを構成する細胞、いわゆるニッチ細胞として骨髄由来のCD11b陽性F4/80陽性細胞が機能していることを突き止めた。一部の白血病・リンパ腫では、その増殖、進展と共に血液中で線溶系の亢進すなわちプラスミン産生の増加とこれに伴うマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の活性化が認められる。最近の他施設及び代表者らの研究で、これらのプロテアーゼが、血管内皮増殖因子(VEGF)や細胞増殖因子Kit-ligandのプロセシングを制御していることが解ってきた。本年度の研究で、作製した白血病・リンパ腫のマウスモデルにおいても、これらのプロテアーゼの活性化、VEGF、Kit-ligandの血中濃度の上昇を認め、また遺伝子欠損マウスの使用により、線溶系酵素及びMMPの活性が、一部のリンパ腫細胞の増殖、そしてこれらの液性因子レベルと有意な相関関係を有することが判明した。さらにこれらの実験結果を基礎として、研究者らは、MMP活性を抑制する新規のプラスミン活性阻害剤YO-2が、骨髄由来CD11b陽性F4/80陽性細胞の腫瘍組織周囲への動員抑制を介し、生体内でリンパ腫増殖を有意に抑制することを示した。今年度の研究でこの阻害剤には、各種炎症性サイトカインの分泌抑制作用を有することが判明してきており、敗血症性ショックや移植に伴う移植片対宿主病、炎症性腸疾患等の様々な炎症性疾患に対する有効性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
白血病・リンパ腫の増殖・進展と血液凝固・線維素溶解系因子活性との関連性を見出し、論文発表に至っただけでなく、治療薬候補を見出したことから、今後のトランスレーショナルリサーチ研究への展開という新たな指針も見出せたことから。
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今後の研究の推進方策 |
1. 今年度の研究でリンパ腫細胞に対する生体内至適微小環境の構成分子―ニッチ細胞と考えられた、骨髄由来の1.CD11b陽性F4/80陽性細胞について、さらにその性状及び機能解析を進める。さらにこれらの細胞、あるいはその動員機構自体を標的としたリンパ種治療の可能性を探る。2. 今年度の研究ではT 細胞性リンパ腫細胞の皮下移植モデルを使用したが、今後はB細胞性白血病・リンパ腫細胞も使用し、さらに移植方法を変える等、本研究で見出されたプラスミン阻害剤の有用性をより多くの腫瘍、異なった条件下で確認する。また、形成された腫瘍周囲の微小環境について、本年度の解析を参考とし、その構成及び細胞性状等を明らかにする。また薬剤投与量を増減することによる有効性の変化等を調べる。3. 重症免疫不全マウスに対するヒト由来リンパ腫・白血病細胞の移植モデルの使用等、ヒト白血病・リンパ腫病態により近いモデルを使用して、本研究で見出されたプラスミン阻害剤の臨床上の有用性を確認する。さらにこの場合の薬剤投与量の増減を行い、至適投与量、毒性、副作用についてさらに精査を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
1. 各種マウスB細胞性白血病・リンパ腫細胞を近交系C57Bl/6あるいはBALB/cマウスの皮下または静脈内へ移植する。使用するマウス及び腫瘍細胞の購入に30万円程度使用する。2.1の処置後、各群のマウスに連日で、プラスミン活性阻害剤YO-2、またはPAI-1阻害剤TM5275、さらに tPAあるいはuPAを投与する群を作製する。対照群には溶媒のみを投与する群を作製する。3.2の処置後、2-3日間隔でマウス血漿を採取し、マウス血漿中の血管新生因子あるいは造血因子、ケモカイン、各種MMP、線溶系因子濃度あるいは活性を免疫酵素抗体法、ELISA法、ザイモグラフィーないしはウェス タンブロットで測定、検出する。これらのキット・試薬代に30万円程度使用する。4.2の処置後、腫瘍発育の状況と末梢血球数を記録し、1週毎に、骨髄等のマウス各種臓器及び腫瘍を摘出し、これらの病理組織所見を詳細に観察する。さらに蛋白分解酵素群、血管内皮特異抗原、各種血球系マーカーあるいは接 着分子の発現等についての免疫学的特殊染色、in situ hybridization、腫瘍周囲微小環境中の単核球についてフローサイトメーター解析を施行し、各種臓器組織中の血管新生、腫瘍周囲の集簇細胞の性状、骨髄細胞の構成変化、骨髄 内外のMMPあるいは線溶系因子活性等について精査する。これらの抗体・試薬代に30万円程度が使用される。
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