研究課題
本研究では、白血病・リンパ腫病態における血液凝固・線維素溶解系(線溶系)亢進の意義とその機序、病態と関連した細胞外微小環境―「悪性ニッチ」の解明を主目的としている。近年、こうした微小環境の構成分子である膜型及び可溶型マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の白血病・リンパ腫等の造血器腫瘍増殖における重要性が示唆されている。今年度の研究で、代表者らは、骨髄中の膜型MMP(MT1-MMP)が、各種造血因子、サイトカインの細胞外ドメイン分泌及びこれらの遺伝子発現を制御することによって造血の起点として機能していることを明らかにした。MT1-MMP遺伝子欠損マウスでは、造血を制御する多くのサイトカインやケモカインの血中濃度が正常マウスと比較して有意に低下しており、汎血球減少を呈していた。代表者らは、その原因としてMT1-MMPによって上方制御される各種MMPの相互活性化によるこれら造血制御因子の骨髄ストローマ細胞からの細胞外ドメイン分泌が阻害されていること、さらにMT1-MMP遺伝子欠損マウスでは、MT1-MMPの細胞内ドメインに結合している血管新生因子の一つ低酸素誘導因子(HIF-1)阻害物質であるFIH-1が細胞質内に遊離し、HIF-1活性が阻害され、多くの造血制御因子の遺伝子発現自体が抑制されていることを解明した。またこれまで、代表者らは、各種MMPの活性化が線溶系因子プラスミンによって制御されていることを報告してきたが、今年度の研究で、プラスミノーゲンアクチベータ抑制因子(PAI-1)活性を薬剤によって阻害することで、血管新生を促進することに成功した。これらの研究成果は、微小環境の構成分子の活性及び発現調節が細胞増殖あるいは血管新生の両面から、造血器腫瘍増殖を制御することを示唆しており、白血病・リンパ腫病態の形成に寄与していることを改めて示唆したものと言えよう。
1: 当初の計画以上に進展している
白血病・リンパ腫の増殖・進展と血液凝固・線維素溶解系因子活性との関連性を見出し、論文発表に至っただけでなく、治療薬候補、さらにこれに関連した新たな造血・血管新生機構の解明、さらにこれを基盤とした組織再生促進療法の可能性も見出せたことから。
1. 今年度の研究で白血病・リンパ腫細胞に対する細胞外微小環境の構成分子と考えられた各種プロテアーゼの活性化と各種病態、そして昨年度研究成果との関連性の解明を進める。さらにこれを標的とした治療の可能性を探る。2. よりヒト白血病・リンパ腫病態に近いモデルを使用して、本研究で見出されたプラスミン阻害剤の臨床上の有用性を確認する。さらに薬剤投与量の増減により、至適投与量、毒性、副作用についてさらに精査を進める。
各種マウス白血病・リンパ腫細胞を、各種マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)あるいは凝固・線維素溶解系(線溶系)因子遺伝子欠損マウス、これに加え、トロンボポイエチン、またはその受容体の遺伝子欠損マウス、delta dbl GATA、Sl/Sldsh/sh等の遺伝子改変マウス、さらにこれらの野生型に骨髄移植したマウスの皮下または静脈内に移植し、マウス白血病・リンパ腫モデルを作製する。これらのマウス飼育費及び腫瘍細胞の購入に30万円程度使用する。1.の処置後、各群のマウスに連日で、プラスミン活性阻害剤YO-2、トラネキサム酸、組織型プラスミノーゲンアクチベータ(PA)あるいはウロキナーゼ型PA、ヘパリンあるいはトロンビンを投与する群を作製する。対照にこれらの溶媒のみを投与する群を作製する。2の処置後、2-3日間隔でマウス血漿を採取し、マウス血漿中の血管新生因子あるいは造血因子、ケモカイン、各種MMP、凝固蛋白、線溶系因子濃度あるいは活性を免疫酵素抗体法、ELISA法、ザイモグラフィーないしはウェスタンブロットで測定、検出する。これらの試薬代に30万円程度が使用される。2の処置後、腫瘍発育の状況と末梢血球数を記録し、1週毎に、骨髄等のマウス各種臓器及び腫瘍を摘出し、これらの病理組織所見を詳細に観察する。さらに蛋白分解酵素群、血管内皮特異抗原、各種血球系マーカーあるいは接着分子の発現等についての免疫学的特殊染色、in situ hybridizationを施行する。さらに腫瘍組織を採取し、単核球を分離し、骨髄、脾臓と合わせてフローサイトメーター解析も行い、各種臓器組織中の血管新生状況、腫瘍周囲の集簇細胞の性状、骨髄・脾臓細胞の構成変化、骨髄内外のMMPあるいは線溶系因子活性等について精査する。これらの抗体・試薬代に30万円程度が使用される。
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http://stemcell-u-tokyo.org/sc-re/