多発性骨髄腫は、白血病・悪性リンパ腫と並ぶ三大血液腫瘍の一つであり、悪性化形質細胞の単クローン性増殖によって引き起こされる難治性疾患である。我々は骨髄微小環境下において供給されるサイトカインの一種であるレプチンが多発性骨髄腫の病勢を制御する役割をもつ可能性を提示し、悪性化形質細胞の増殖におけるレプチンの腫瘍免疫学的役割を明らかにするために、骨髄幹細胞へのレプチンの直接的及び間接的効果の解析を検討した。しかし多発性骨髄腫患者のみならず健常人にも骨髄穿刺を行って骨髄細胞を得ることは高い侵襲性から問題が多く、我々はより容易に入手可能な免疫細胞ソースとして臍帯血の利用を試みる方針に転向した。臍帯血は異なる分化段階にある様々な幹細胞及び前駆細胞のヘテロな集合体で未熟免疫細胞を豊富に含み、臨床応用時の免疫細胞ソースとしても高い優位性を持つものと考えられた。臍帯血由来免疫細胞を用いて検討を進展させるに従い、我々は血液腫瘍抗原特異性をもつ細胞傷害性T細胞による多発性骨髄腫の新規治療戦略の可能性を見出すに至った。我々は臍帯血から細胞傷害性T細胞を分離培養し、HLA拘束性に血液腫瘍抗原特異性を誘導し得た。更に強力な免疫学的効果を得るためには抗原特異的細胞傷害性T細胞の誘導率を改善する必要があったため、我々は樹状細胞に代わる新たな抗原特異性誘導法としてビーズ表面に免疫関連分子を結合させた人工抗原提示細胞を作製してその効果を追究した(「細胞傷害性T細胞誘導用組成物」特許出願PCT/JP2012/053396)。この手法は多発性骨髄腫のみならず血液悪性諸疾患の新規治療戦略として発展させることも可能であると考えられ、この3年間に賜った貴重な科研費助成によって得られたこれらの有用知見及び新規技術を、今年度から医科学研究所病院にて開始予定の臨床研究に応用できるよう更に継続して努めてゆく所存である。
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