研究課題
1.前年度に引き続き、新たに10例の骨髄異形成症候群(MDS)患者より文書による同意を取得し、定期的に実施している骨髄検査と血液検査の余剰検体から、骨髄CD34+細胞と末梢血Tリンパ球(対照)をそれぞれ純化して凍結保存した。2.予備実験として、臍帯血より分離したCD34+細胞1x105個に前年度作製したEF1αプロモーターで初期化因子を発現するレンチウイルス(CS-EF-4F3A-loxP)を感染させ、iPSC樹立を試みた。マウス胎仔線維芽細胞上に播種して2週間前後より、iPSC類似の形態を示す細胞塊が出現し、3回の実験で平均0.01%の確立で継代可能なiPSC様細胞が樹立できた。このうち3クローン(cl.1, cl.5, cl.6)について詳細に解析し、発現プロフィルの解析などによりiPSCの表現型が確認された。3.次に、同様の手順に従って、MDS患者の骨髄CD34+細胞からCML-iPSCの樹立を試みた。RCMD1例、RARS1例、MDS/MPD1例から採取したサンプルを用いて、CS-EF-4F3A-loxPウイルスを感染させた。本研究は、当所ゲノム倫理審査委員会より承認された課題「難治性造血器疾患由来iPS細胞の樹立とiPS細胞を用いた病態解析(承認番号:21-9-0618)」にもとづく。4.本ベクターシステムによるiPSC樹立が、CBでは比較的容易であったにも関わらず、MDS患者では上手くいかない原因が、細胞特性の差異に因るか否かは現時点で不明である。EF-1αプロモーターはES細胞やiPSCでも働くことから、内在性の発現と併せて初期化因子の発現レベルが高いことがMDS-iPSC樹立を阻害する可能性を考慮して、現在Tet-On(テトラサイクリン依存性の発現)システムに変更したベクターにより再チャレンジしている。
3: やや遅れている
われわれが構築したレンチウイルスベクターシステムにより、臍帯血CD34+細胞からは効率よくiPS細胞を樹立できたが、MDS症例やCML症例のCD34+細胞を用いた場合、iPSC様の細胞集団は生じたものの、いずれも継代途中で増殖が停止した。従って、解析対象となるMDS-iPSCの樹立に至っていない。この理由が細胞特性の差異に因るか否かは現時点で不明である。EF-1αプロモーターはES細胞やiPSCでも働くことから、内在性の発現と併せて初期化因子の発現レベルが高いことがMDS-iPSC樹立を阻害する可能性も考えて、新たなベクターシステムを用いることを検討している。
1.Tet-On(テトラサイクリン依存性の発現)システムに変更したレンチウイルスベクターまたはセンダイウイルスベクタ-に変更して、MDS-iPSCを複数クローン樹立する。2.生じたiPSCがMDSクローン由来か正常クローン由来かを識別するために、対象症例について予め遺伝子変異の有無を解析しておく。当初の計画では染色体による識別を考えていたが、SF3B1その他MDSにおいて高頻度に変異が検出される遺伝子を解析したほうが、より簡便であり候補症例も多く得られると考えたうえでの対策である。3.樹立したiPSCの解析については、当初の計画通り進めるが、iPSCからCD34+細胞への分化誘導はiPSC-sac法に準拠する。
iPSCの樹立とその解析に研究費を充てるため、ほとんどは消耗品(培養液、血清、培養器具、各種試薬)の購入に使用する予定である。
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