研究課題
従来作成されたCas-Lノックアウトマウスとp210Bcr/Ablトランスジェニックマウスを交配することにより、Cas-L欠損は白血病進行を促進することが明らかにされていた。今回私は白血病幹細胞を含む骨髄細胞を取り出し、Cas-Lの有無で蛋白の発現量およびリン酸化に差が生じているか解析を行なった。その結果、癌化や細胞増殖に重要なSTAT5やAurora kinaseはCas-Lの有無で有意な差は認められなかった。また総蛋白におけるチロシンリン酸化の変化も見たが、特に差は認められなかった。続いて、骨髄および脾臓の細胞を用いたコロニー形成実験を行なったが、Cas-Lの有無でコロニー形成能に関しても有意な差を認めることはできなかった。 Cas-L欠損p210Bcr/Ablトランスジェニックマウスでは髄外への白血病細胞浸潤が著しいことが明らかとなっている。Cas-Lは本来、細胞の遊走や接着に重要な働きを示す分子であることから、Cas-L欠損によりホーミングに差が生じていないかを調べるため、骨髄細胞を用いた移植実験を行なった。その結果、Cas-L欠損細胞の骨髄へのホーミングは特に野生型と差はないものの、脾臓へのホーミングはKSL細胞およびリンパ球において著しく低下することが明らかとなった。一方で骨髄球系細胞においてはその低下は認められなかった。 以上より、Cas-Lの欠損は細胞増殖自体には変化を及ぼさないものの、ホーミング能に差を生じ、その結果骨髄球系細胞の髄外浸潤が高まり、早期死亡をもたらすものと考えられた。これらの結果は、Cas-Lの白血病細胞における機能を初めて明らかにした研究であり、重要な結果であると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
p210/Bcr/Ablトランスジェニックマウスは骨髄球系白血病の重要なモデルマウスであり、Cas-L欠損p210Bcr/Ablトランスジェニックマウスを解析することはCas-Lの白血病細胞における機能を把握する上で非常に重要な実験である。本年はその解析を概ね修了することができ、Cas-Lの骨髄球系白血病細胞における働きを明らかにすることができた。
今後は白血病幹細胞に対象を絞って、Cas-Lと白血病幹細胞の関係にして明らかにして行く予定である。またマウスモデルのみならず、白血病患者検体を用いた研究も進めていく。
研究費使用に関しては当初の予定と大きな変更はない。試薬、抗体、マウス維持、購入費用に充てて行く予定である。また今年度の研究成果の発表および、情報収集のため本年は国際学会参加を検討しており、その費用にも一部充てる予定である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Cancer Science
巻: 102 ページ: 2109-17
10.1111/j.1349-7006.2011.02066.x