研究課題/領域番号 |
23591381
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
早川 文彦 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (30402580)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | STAT3 / 分子標的薬 / 白血病 / 抗がん剤 / 白血病モデルマウス |
研究概要 |
今年度はインビトロでのOPB-31121の作用機序の解明とインビボでの薬効確認を行った。試験管内で蛋白合成したSTAT3をリコンビナントなJAK2またはLynを酵素としてインビトロキナーゼ反応を行い、その反応に対するOPB-31121の阻害活性を検討した。OPB-31121はキナーゼ反応を阻害できなかったが、基質をOPB-31121に暴露させたHepG2細胞の蛋白溶解液から免疫沈降されたSTAT3に変更した所、これはリン酸化を受けなかった(コントロールのHepG2から得られたSTAT3はリン酸化される)。いずれの反応においてもOPB-31121はJAK2のリン酸化を阻害することは無かった。これはOPB-31121がSTAT3に作用する事を示すとともに、細胞内にOPB-31121のSTAT3への作用を媒介する因子が存在する事を示唆するデータであった。また、AML細胞株HEL92.1.7に対しOPB-31121を添加し、その細胞溶解液を用いてウエスタンブロットを行った。抗リン酸化JAK2抗体、抗リン酸化STAT3抗体等を用いJAK2のリン酸化を阻害する事無くSTAT3のリン酸化が阻害されている事を確認した。NOD/SCID/IL2-Rgammac-/- (NOG)マウスに白血病患者より採取した白血病細胞を経静脈的に移植し、細胞株にはない白血病細胞のheterogenityとニッシェ依存性を維持した、より実際の白血病に近いマウス白血病モデルを作成した(Ph+ALL 3例、 CML-BC T315I変異陽性 1例、AML 1例)。これに対し経口的にOPB-31121(200~300mg)を10~28日間投与し著明な腫瘍退縮効果(T/C: 4~58%)を確認した。薬剤の投与中に腫瘍細胞の減少と共に正常造血の回復が認められ、正常造血細胞への増殖抑制が軽度であると予想された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
インビトロのリン酸化反応の構築は順調に進み、細胞内にOPB-31121のSTAT3への作用を媒介する因子が存在するという予想外の結果が得られた。これを解明する事で未知のSTAT経路活性化機序を発見する事につながる可能性があり、予想以上の成果が得られる可能性が出てきた。マウス白血病モデルの構築も順調で、予想以上のOPB-31121の薬効が確認できた。特に本薬剤が正常造血を抑制しない事を示唆するデータが得られ、効果だけでなく本薬剤の安全性を示唆するデータも得られた。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内でOPB-31121のSTAT3への作用を媒介する因子の検索を進め、OPB-31121によるSTAT3抑制の作用機序を明らかにしていく。正常造血への抑制作用がないことを更に確認するために、ヒト正常臍帯血を移植したモデルマウスを作製し、これに対してOPB-31121を投与する事で正常造血への影響を検討する。OPB-31121耐性細胞株を作製し、耐性化に関わる遺伝子変異、遺伝子発現変化を検討する事で、本薬剤の作用機序の解明につなげる。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度へ繰り越す研究費は無い。上記に示した研究方針に従い、マウスの購入、ヒト臍帯血の購入、マウスの飼育、各種細胞培養などに関わる消耗品などの購入を行う。また成果発表と情報収集を兼ねて、日本血液学会、および米国血液学会に参加する。
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