研究課題
これまでの血液悪性腫瘍幹細胞-骨髄微小環境研究は、2つの観点から行われてきた。1つはそれを特異的に破綻させることを目的に正常血液幹細胞-骨髄微小環境との差異を解析するもの。もう一つは血液悪性腫瘍幹細胞を静止期に留めるメカニズムを同定しようとしたものである。しかしながらそのような観点から創薬に結びつけるには困難である可能性がある。理由としては、血液悪性腫瘍幹細胞も、正常血液幹細胞とほぼ同様の性状を有することが明らかとなってきており特異的な血液悪性腫瘍幹細胞-骨髄微小環境シグナルを同定することが困難と予想されること。もう一つの理由は、上述したように幹細胞-骨髄微小環境は複数のfactorによって維持されているため、それら重要な経路を一度にinhibitすることは困難と考えられるためである。 こういった背景のもと我々は、まず微小環境の機能がどのように制御されているかを解析することが必要と考え、その制御メカニズムについて研究を進めていた。その結果、fibroblast growth factor (FGF) 2が間葉系幹細胞を神経系細胞へ可逆的に移行させることを見いだした。それと同時に造血に必須であるCXCL12をはじめとする複数の因子発現を変化させ間葉系幹細胞の造血支持能力が喪失した。以上は、正常造血幹細胞-骨髄微小環境における観察であったが、この現象は白血病幹細胞-骨髄微小環境にもあてはまることをin vitroおよびin vivoで確認した。FGF2で処理された間葉系幹細胞は、ストローマ依存性の急性白血病cell lineであるTRL-01維持能力が有意に低下していた。慢性骨髄性白血病cell lineであるNCO2は、間葉系幹細胞上ではイマチニブ耐性となるが、FGF2処理間葉系幹細胞上ではその抵抗性が克服され静止期の細胞が減少した。
2: おおむね順調に進展している
白血病細胞を支持する微小環境の機能がどのように制御されているかを解析することが必要と考え、その制御メカニズムについて研究を進めてた結果、fibroblast growth factor (FGF) 2が間葉系幹細胞を神経系細胞へ可逆的に移行させることを見いだした。それと同時に造血に必須であるCXCL12をはじめとする複数の因子発現を変化させ間葉系幹細胞の造血支持能力が喪失した。以上のアイデアは、世界でも報告例はほとんどなくユニークなもであること、さらにこの作用は、マウスを用いたin vivo実験でも確認されているため。
ヒト白血病マウスモデル(NOGマウスにヒトALL細胞を移植したもの)においてFGF2とAra-Cで処理し、Ara-C単剤で処理したものよりも骨髄中の静止期白血病細胞数が減少していることをFACSなどで確認する。骨髄、脾臓を免疫化学染色を行い実際にCXCL12が低下することを確認する。以前にわれわれは、FGF2の微小環境に対する作用は可逆的でありマウスモデルでもFGF2を中止すれば造血微小環境は回復することを確認してあるが、白血病マウスモデルでもFGF2とAra-Cを中止すれば、正常な骨髄機能が回復することを確認する。また血液悪性腫瘍幹細胞-骨髄微小環境を阻害する低分子化合物としてAMD3100が知られているが、それと比べてFGF2に優位性があるのか検討する。確認後にFGF2類似の活性をもつ低分子化合物をスクリーニングする。
ヒト白血病マウスモデル(NOGマウスにヒトALL細胞を移植したもの)を用いて上記の計画を行う。NOGマウスの購入、管理および薬剤投与。組織学的な検索に研究費を使用することを計画している。FGF2の想定される立体構造をもとにNCBI (米国National Center for Biotechnology Information)データベースを用いて低分子化合物をスクリーニングする。候補となる低分子化合物は、NCBIより購入可能となる。該当する低分子化合物が存在しない場合には、大塚製薬株式会社の協力(連携研究者:杉本慶樹博士)のもと化学合成することも計画している。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
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