研究課題
私達は、私が発見したRNA ポリメラーゼIIホロ酵素複合体の構成成分である基本的転写共役複合体メディエーターが造血のニッチ細胞内で発現を誘導する分子(オステオポンチン:OPN 等)により、造血幹・前駆細胞が支持されることを発見し、最近発表した。本研究は、造血器等におけるメディエーターの生理的役割を解明してきた私達の成果を基盤に、造血ニッチでメディエーター(特にそのMED1/TRAP220 サブユニット)が細胞外環境を構成するシグナルの発現をどう制御して造血幹・前駆細胞を支持するのかを明らかにし、血液内科の臨床に寄与することを目的とする。本研究は基本的転写因子がニッチ機能を担う仕組を始めて解明する学際的研究である。 先にマウス造血ニッチモデルにおいて、トロンビン切断型OPNと異なり全長のOPNが骨髄細胞の増殖ストレスを発揮しかつ造血幹・前駆細胞支持能を持つことを示したが、その造血細胞側の受容体はこれまで不明であった。私達はこの度、特異的抗体を用いることにより、受容体がインテグリン系の受容体ではなくCD44であることを示唆する結果を得た。従って、OPNからCD44を介する細胞増殖ストレスのシグナルが造血細胞に入ることが強く示唆される。 一方、MED1 欠損MEFで特異的に発現が低下している分子を網羅的遺伝子発現プロファイルで検討したところ、OPN 以外には既知の造血幹細胞支持分子が検出されなかったが、著明に発現が低下したの9 個の遺伝子を含むニッチ分子候補をみつけ、その中に増殖因子が含まれていた。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画に示したことのうち、造血前駆細胞の増殖ストレスと維持を司る新規細胞外シグナル分子の検索、全長OPNの機能の確認とその機序、マウスモデルの作製は順調に進んでおり、次年度の研究につなげることが十分可能である。
当初の計画に従い、新規細胞外シグナル分子の発現のメカニズムの解析や個体レベルでの解析を推進したい。また、余裕があれば、メディエーターとの関連からOPNのプロモーター解析について詰めていくつもりである。
昨年度には829円という端数の予算の残余があった。以前なら細かい物品を発注して消化するところであったが、本研究費が基金化されたことから端数を消化する必要がないことを知り、少額とはいえ、次年度に繰り越して真に有効な利用を図ることにした。この金額は当初の予算のうち消耗品(試薬)に充てる予定である。 一方、所属する研究科の同僚の転勤に伴い、研究科内にある備品で足りないものが生じている。その中で、転写研究に必須な、クロマチン免疫沈降アッセイのため、出力制御が可能な専用の超音波破砕機を購入予定である(約100万円の備品)。
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Mol. Cell. Biol.
巻: 32 ページ: 1483-1495
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