研究課題
私達は、私が発見したRNA ポリメラーゼIIホロ酵素複合体の構成成分である基本的転写共役複合体メディエーターが造血のニッチ細胞内で発現を誘導する分子(オステオポンチン等)により、造血幹・前駆細胞が支持されることを発見し発表した。本研究は、造血器等におけるメディエーターの生理的役割を解明してきた私達の成果を基盤に、造血ニッチでメディエーター(特にそのMED1/TRAP220サブユニット)が細胞外環境を構成するシグナルの発現をどう制御して造血幹・前駆細胞を支持するのかを明らかにし、血液内科の臨床に寄与することを目的とする。本研究は基本的転写因子がニッチ機能を担う仕組を始めて解明する学際的研究である。MED1 欠損MEFは野生型MEFと比べて造血細胞の増殖能と造血幹細胞支持能の著明な低下を示す。その機序をシステマティックに見出すためにこれらのMEFの遺伝子発現をマイクロアレイで網羅的に調べたところ、オステオポンチン以外には既知の造血幹細胞支持分子が検出されなかったが、著明に発現が低下した9 個の遺伝子を含むニッチ分子候補をみつけ、その中に増殖因子FGF7が含まれていた。FGFファミリーはニッチ分子として注目されており、24年度にFGF1とFGF2が造血幹細胞支持能を発揮することが報告された。またFGF7が肝前駆細胞の支持分子であることも24年度に報告された。したがって、FGF7が造血ニッチ機能を持つことが予想される。そこで、MEFを用いた造血ニッチモデルを用いて、野生型MEFに抗FGF7抗体を添加して検討したところ、共培養の骨髄細胞の増殖が抑制され、造血幹細胞支持能の低下も認めた。逆に、MED1欠損MEFにリコンビナントFGF7を添加すると、共培養の骨髄細胞の増殖が促進し、造血幹細胞支持能が増加した。以上から、FGF7が新しい造血ニッチ分子であることが強く示唆された。
2: おおむね順調に進展している
造血ニッチを構成する新しい分子候補FGF7を見出したことより、造血を支持する細胞外環境の新しい仕組みを提唱できる可能性がある。
当初の計画に従い、新規細胞外シグナル分子であるFGF7の発現の解析やそのレセプターシステム仕組みを解明し、FGF7による造血ニッチ機能のメカニズムを解明したい。また可能な限り個体レベルでの解析を推進したい。一方、メディエーターとの関連からオステオポンチン遺伝子のプロモーター解析について詰めてみたい。
昨年度には10,431円という端数の予算の残余があった。以前なら細かい物品を発注して消化するところであったが、本研究費が基金化されたことから、次年度に繰り越して真に有効な利用を図ることにした。この金額は当初の予算のうち消耗品(試薬)に充てる予定である。その他は計画通りの研究費の使用計画を持っている。
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