研究課題
ウイルスは発癌に密接に関係する。造血器腫瘍を惹起する腫瘍ウイルスと宿主側因子との相互関係を解析し、ウイルス関連造血器腫瘍の病態解明と細胞腫瘍機序の一端を明らかにする。 本年度は、最近発見された新規腫瘍ウイルスであるメルケル細胞ポリオーマウイルス(Merkel cell polyomavirus: MCPyV)に着目した。MCPyVは当初、皮膚の悪性腫瘍であるメルケル細胞癌から発見されたが、リンパ指向性ウイルスであることも示唆されている。MCPyVが造血器腫瘍の発生にも関与している可能性を追求するため、本邦初の研究と位置づけて、これを実施した。 本年度は慢性リンパ性白血病(CLL)に着目した。CLLは欧米においては成人で最も多く発症する白血病であるが、アジア地域では極めて稀な白血病である。CLLの発症に世界的な地域差がある理由は不明な点が多い。CLLの病因としてのMCPyVに関する研究は、欧米から数編の報告がなされているが、その結論は現在論争中である。しかしながら、これらすべての報告は欧米(米国とドイツ)からなされたものであり、アジア諸国からの研究報告は皆無であった。そこで日本人CLLについて、MCPyV DNAが検出されるかどうかを解析した。方法は日本人CLLの27例で、MCPyV small T遺伝子を標的にした定量的リアルタイムPCR法を用いてウイルスゲノムの検出を試みた。その結果27例中9例(33%)でMCPyVが検出された。しかしながら、そのMCPyV DNA量はMCPyV陽性メルケル細胞癌と比べると低いレベルにあった。このことより、MCPyVは日本人発症のCLLの病因に直接的には関係していないことが示唆されたが、CLLの一部にMCPyVが何らかの関与をしている可能性は完全に否定できないため、引き続き研究を継続する。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、ウイルスと造血器腫瘍の関係を詳細に解析することが目的である。新規腫瘍ウイルスであるMCPyVが本邦発症のCLLに検出できるかどうかを調べた。その結果、ゲノム数は少量であるものの、一部のCLLでMCPyV DNAを検出できることが判明した。この本邦初のデータと欧米からの結果と比較解析することが可能になった。またMCPyV DNAの定量検出システムも独自に確立することができた。これら研究成果については、現在論文投稿準備段階に入っている。 上記の研究に平行して、造血器腫瘍におけるメチル化解析の研究なども実施し、成果をあげた。 以上を総合し、研究が計画通りに進展していると判断した。
今後も引き続き、ウイルスと造血器腫瘍の関係について研究を推進する。 最近、新たに発見されたポリオーマウイルスであるヒトポリオーマウイルス9(human polyomavirus 9: HPyV9)はリンパ指向性ウイルスとされており、これが造血器腫瘍の発症に関係しているかどうかは全く明らかにされていない。そこで、様々なリンパ増殖性疾患においてHPyV9ゲノムが検出されるかどうかを調べ、それがどのように病態に関与しているのかを解析する。 MCPyVは単球にも潜伏感染することがわかっている。単球性白血病(急性骨髄性白血病AMMoL、急性単球性白血病AMoL、慢性骨髄単球性白血病CMML)におけるMCPyVの蔓延性についても調べる。 Epstein-Barrウイルス(EBV)が密接に関係する膿胸関連リンパ腫(pyothorax-associated lymphoma: PAL)について、PCRアレイシステムを用いてPAL特異的発現遺伝子を同定し、本疾患とEBVの関連性、EBVの造腫瘍性についての研究を推進する。
本年度は、細胞培養システムの充実、MCPyV DNAの定量検出システムの立ち上げを含め、ウイルス検出のための試薬を中心に最低必要限の予算を計上したため、若干の繰越金が発生した。 次年度は、遺伝子検出関連試薬、蛋白発現解析用試薬、プラスティック器具などの物品費、成果発表のための国内旅費、および学術誌掲載のための費費などに予算の計上を予定している。
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