研究課題
骨髄異形成症候群(MDS)は高齢者に多く、本邦の人口高齢化に伴い、今後、MDS症例の増加が予想されるが、同種造血幹細胞移植の適応となる一部の若年者をのぞき、根治的治療法がないのが現状である。近年、がん幹細胞モデルが提唱され、がん幹細胞を標的とした治療法の研究開発が盛んであるが、MDSでは、腫瘍性幹細胞も未だ同定されていない。幹細胞アッセイに用いられる現存の異種移植モデルでは、MDS細胞の生着が非常に低く、MDS幹細胞研究の障壁となっている。本課題では、次世代免疫不全マウスをさらに改良し、繁殖能力の高いB6ラインに、Rag2欠損、IL2Rg欠損によってマウスT細胞分化を完全遮断し、ヒトSIRPAノックインによる完全マクロファージ寛容の導入と、ヒトIL-3導入による骨髄系細胞増殖の促進など、MDS幹細胞の生着効率を高めた新規ラインを樹立し、MDS幹細胞の分離・同定と、疾患モデルマウスを確立を行う。我々は、すでに、B6バックグランドでRag2およびIL2Rγを欠損したマウスに、NOD型SIRPA変異を導入した免疫不全マウスB6.Rag2(null)IL2Rγ(nul)lSIRPA(NOD/NOD)ライン(BRGS)を樹立しており、当該年度では、現存するラインで最高の生着効率を持つNOG/NSGラインと同等の生着効率を持つこと明らかにした。この結果は、マクロファージ寛容の強化によって、マウスバックグラウンドによらず、新規免疫不全マウスラインの樹立が可能であることを示している。さらに、完全マクロファージ寛容導入と、骨髄サイトカイン環境改善のため、ヒト型SIRPA、ヒトIL-3をノックインしたラインの樹立を目指し、当該年度において、これらの元となるラインの樹立をほぼ終了した。次年度でBRGSラインと交配し、最終ラインを樹立し、MDS幹細胞のアッセイを進めることが可能となった。
2: おおむね順調に進展している
がん治療成績の向上には、がん幹細胞自身を標的とした新規治療法の開発が求められている。急性骨髄性白血病(AML)では、その実用化が目前であるが、MDSでは、その腫瘍性幹細胞も未だ同定されていない。AMLでは、AML幹細胞が高度に純化可能である。一方で、同じ骨髄系腫瘍であるMDSにおいては、これまでMDS幹細胞の同定・純化は進んでいない。正常HSCやAMLにて確立された免疫不全マウスの実験系を用いても、MDSでは、生着率が極端に低く、マウス内で疾患の再構築が得られないことがその障壁となっている。その原因として、免疫不全マウスの骨髄微小環境がMDS幹細胞を維持できない可能性が考えられる。本課題では、現存する免疫不全マウスによるアッセイ系に様々な改良を加え、MDS疾患モデルの樹立を目指している。我々は,ヒト細胞の生着にマクロファージ寛容が重要な役割を持つことを見出しており、本課題では、ヒト型SIRPAをノックインし、完全なマクロファージ寛容を導入した免疫不全マウスを樹立する。さらに、IL-3は骨髄球系細胞の重要な増殖因子であるが、マウスIL-3はヒトIL-3と交差活性がない。そこで、同時にヒトIL-3ノックインマウスを作製し、上述のマウスと交配する。当該年度では、基礎となるBRGSラインの樹立が完了し、現存するラインで最高の生着効率を持つNOG/NSGラインと同等の生着効率を持つこと明らかにできた。また、ヒトSIRPA、ヒトIL3ノックインライン樹立のための、B6.SIRPA(human/human)、B6.IL3(human/human)ラインの樹立をほぼ終えている。これらの成果から,次年度では、これらのマウスを交配して、最終ラインを樹立し、MDS幹細胞のアッセイに進むことが可能で、研究計画は、おおむね順調に進行している。
これまでに、基礎となるBRGSラインの樹立が完了し、さらに、ヒトSIRPA、ヒトIL3ノックインライン樹立のための、B6.SIRPA(human/human)、B6.IL3(human/human)ラインの樹立をほぼ終えている。ラインの確立、バッククロスなど新規ラインの作製には時間がかかるため、次年度も引き続いてラインの確立を継続する。このように、我々の樹立した骨髄系腫瘍幹細胞のアッセイに最適化した次世代免疫不全マウスを用いて、MDS骨髄のマウスへの生着効率の向上と、マウス内でのMDS病態の再構築を試み、次に、これまで正常HSC、AML幹細胞を純化してきた手法を用いて、MDS骨髄よりMDS幹細胞分画の同定を試みる。MDSは、HSCレベルの未熟細胞のゲノム異常によって生じると考えられ、AML幹細胞と同様に正常HSC分画であるCD34+CD38-分画にMDS幹細胞が存在することが予想される。CD34+CD38-分画から開始し、Thy-1、rhodamine-123、TIM-3を組み合わせて、CD34+CD38-細胞の亜分画を8カラーFACS Aria SORPを用いて高純度に分離し、上述の新規異種移植アッセイ系にてMDS再構築能を検証する。MDSでは、AMLと異なり、病期進行の過程でいくつもの分子異常が蓄積され、複数分画にMDS幹細胞が存在する可能性もある。我々の樹立する新規マウスラインでは、移植後の長期観察が可能であり、MDS幹細胞分画同定後は、限界希釈法による各分画のMDS幹細胞の頻度や、レンチウイルスによるマーキングによってMDSクローン解析を行い、MDS病期進行のin vivo動態について検討する。さらに、今度にMDS幹細胞が純化可能となれば、MDS幹細胞の遺伝子発現プロファイリングの解析を行い、治療標的分子の探索へと進めたい。
次世代免疫不全マウスラインの樹立のために、BRGSライン、ヒトSIRPA、ヒトIL3ノックインライン樹立のための、B6.SIRPA(human/human)、B6.IL3(human/human)、及び、今後、これらのラインの交配を行っていくため、常時200~300匹のマウスの維持が必要である。さらに、NOD/SCIDマウスやNSGラインの維持も必要なため、マウス飼育に必要な動物実験費が非常に多くかかり、次年度研究費使用計画の多くを占める。また、交配したマウスの遺伝子型をPCR、シークエンスによって確認することが必要なため、DNA抽出用試薬、PCRプライマー、Taqポリメラーゼなどの遺伝子操作試薬、生化学試薬が必要で、このための費用を計上した。また、マルチカラーフローサイトメトリーを用いてMDS幹細胞を純化していく過程で、CD34、CD38、分化抗原(5-7種類)など既知の抗体に加えて、新規の幹細胞特異的抗原に対する抗体も必要になる。また、移植マウスの解析においても、hCD45をはじめとした抗体が複数必要になる。また、樹立した新規マウスラインの評価のため、mCD45などの抗マウス抗体も複数必要である。フローサイトメトリーによる解析には、多数のFACS tubeやシース液等の実験機材を使用するため、これらの経費も計上している。さらに、貴重な臨床検体や移植マウス組織片を凍結保存するための細胞保存用試薬(セルバンカー、OTCコンパウンド)、培養用試薬、また、凍結細胞保存のための、液体窒素の維持費などを計上した。また、国内・国際主要学会参加のための旅費、研究成果を公表するための費用を計上している。いずれも、研究目的を達成するために必要最低限な経費を計上した。
すべて 2011
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Cancer Cell
巻: 20 ページ: 246-259
Nat Med
巻: 17 ページ: 1086-1093