研究課題
(1)HIF-1αトランスジェニックマウスに発生する腫瘍の解析HIF-1αトランスジェニックマウスの約80%に、リンパ増殖性病変が認められ、野生型マウスと比べ明らかに高率にリンパ増殖性疾患の発症を認めた。リンパ腫について、経時的にリンパ腫組織の免疫組織染色、フローサイトメトリーにより表現形質の解析を行い、一部にT細胞性モノクローナリティーの証明を行なった。また、その腫瘍は多臓器に浸潤傾向を認め、臨床的にはリンパ腫の病態を示した。しかしながら多くは腸管に発生するB細胞性の腫瘍であることが明らかになった。腫瘍組織における遺伝子発現をcDNAマイクロアレイを用いて行い、トランスジェニックマウスに発生するリンパ腫に共通する遺伝子のプロファイリングを行った。T細胞、B細胞共に約200種類の遺伝子発現の行進が認められたが、それらのなかにアポトーシス関連遺伝子が多く含まれており、またHIF-1αの標的遺伝子である、EpoRやc-Mycなどが含まれていた。マウス骨髄、脾臓、パイエル板由来のリンパ球を単離し、T細胞およびB細胞分離後に細胞増殖能を解析した。特にT細胞において短期培養よりも長期培養において、生細胞数の増加が認められた。その機序として、HIF-1αトランスジェニックマウス由来リンパ球において、アポトーシスの抑制傾向が認められた。また、HIF-1αトランスジェニックマウス由来リンパ球では、トポイソメラーゼ阻害剤などの抗がん剤に対する感受性が低下しており、薬剤耐性の傾向が認められた。(2)造血幹細胞に対するHIF-1αの作用に関する解析 マウス骨髄細胞を単離し、造血幹細胞分画の割合をフローサイトメトリーにより解析した。生後1年以上のマウスにおいてはHIF-1αトランスジェニックマウスにおいて有意に造血幹細胞分画の増加が認められた。
2: おおむね順調に進展している
23年度の計画に記載した内容のうち、上記結果は既に得ており、またリンパ腫の発症機構における遺伝子発現プロファイリングも進行中である。ただリンパ腫の治療実験や発症抑制実験については、長期にわたる実験であり、現在も進行中である。造血幹細胞に対するHIF-1αの作用に関する解析については、トランスジェニックマウス骨髄における幹細胞の機能の解析を始めたところであるが、既にBCR-ABLキメラ遺伝子の導入実験も行なっており、レトロウイルスを用いて白血病発症モデルの系は確立した。以上の結果より研究計画はほぼ順調に経過していると判断した。
(1)リンパ腫発生のメカニズムの解析については前年度から開始した、HIF-1αトランスジェニックマウスの骨髄移植の表現系の解析を引き続き行う。(末岡、出)(2)HIF-1阻害剤によるがん幹細胞様細胞の除去に関する検討 (3)リンパ系腫瘍発生のメカニズムの解析と並行してトランスジェニックマウスを利用して、白血病幹細胞様細胞の幹細胞としての性質の維持や治療抵抗性への関与についても解析する。(4)マウス骨髄細胞にレトロウイルスを用いてBcr-Abl遺伝子を導入したのち、HIF-1トランスジェニックマウスに骨髄移植を行い、白血病関連遺伝子導入細胞の移植効率や長期移植能の維持に及ぼすHIF-1の作用について検討を行う。またHIF-1トランスジェニックマウスの骨髄細胞に白血病関連遺伝子を導入し、移植効率や末梢血における血球数や表面形質の変化、腫瘍性の増殖の有無について解析を行う。(末岡、出)(5)Bcr-Abl遺伝子導入細胞モデルについては、遺伝子導入細胞の正嫡正着確認後、イマチニブをはじめとしたチロシンキナーゼ阻害剤の投与による治療効果を検討する。このモデルでは特にチロシンキナーゼ阻害剤の投与中止後の再発までの期間や再発後の病勢を検討して白血病細胞の治療抵抗性の獲得に対するHIF-1の作用を検討する。
次年度の研究計画において、最も資材の投入が必要なのが、造血幹細胞、白血病幹細胞に対するHIF-1の作用の解析である。造血幹細胞、白血病幹細胞(Bcr-Abl遺伝子による白血病発症モデルによる)における遺伝子発現プロファイリングの解析、白血病モデルマウスに対するチロシンキナーゼ阻害剤やHIF-1阻害剤による治療実験に費用を重点的に投入する必要があると考える。
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