研究課題
我々はこれまで、多くの骨髄腫細胞株及び多くの患者骨髄腫細胞においてPU.1の発現が低下していて、 PU.1の発現が低下している骨髄腫細胞株U266、 KMS12PEにPU.1を発現すると、細胞増殖停止及び細胞死が起こることを報告してきた。我々は更にこの細胞増殖停止及び細胞死のメカニズムを調べるために、PU.1発現前後で発現量が変化する遺伝子の検索を行い、PU.1発現による骨髄腫細胞の細胞死にTRAILが関与していることが示された。また、U266 tetPU.1細胞のPU.1による増殖停止には一部p21が関与していることが示唆された。同様にclassical Hodgkin Lymphoma (cHD)細胞でもPU.1が発現低下していることが知られており、cHD細胞株であるL428, KH-H2細胞で同様にPU.1を発現するとその細胞増殖が停止し細胞死が誘導されることをin vtiro, in vivo療法で確認した。PU.1はcHD患者より単離したprimaryのcHD細胞にも細胞死を誘導することを示し、PU.1を発現誘導することができる脱メチル化剤やHDAC阻害剤などがcHDの治療にPU.1発現を介して有効である可能性を示した(Yuki et al. Blood 2013;121:962-970)。これらのPU.1による細胞増殖停止のメカニズムとしてPU.1によって発現上昇する蛋白を同定する為にPU.1発現後の骨髄腫細胞株U266とホジキン細胞株L-428を用いてを用いてPU.1に結合している転写因子複合体の構成成分である他の転写因子をPU.1の抗体を用いた免疫沈降法と二次元電気泳動を用いて同定中である。一方、PU.1発現低下が多発性骨髄腫の発症に関わるかどうかを調べる為に現在形質細胞でのみPU.1をknockoutしたマウスを作成し現在解析中である。
2: おおむね順調に進展している
我々は他のB細胞性の腫瘍であるHodgkin LymphomaにおいてもPU.1が発現低下していること、その細胞株であるL428やKM-H2にPU.1をtet-offの系を用いてconditional に発現させるとその細胞増殖が完全に停止することを明らかにした。これらの細胞ではPU.1の発現によりG1/G0 arrestを起こしたり、apoptosisを起こしていることが新たに判明した。さらにこれらの細胞株を免疫不全マウスの皮下に移植するとテトラサイクリンを飲水させた場合は腫瘍が増大して腫瘍死を引き起こすのに対して、テトラサイクリンを含まない通常の水を飲ませた場合には腫瘍の増殖が停止し縮小して長期に生存することを確認した。以上よりHodgkin Lymphoma 細胞においてもPU.1がTumor Suppressorとしての機能を持つことが証明された(Yuki et al. Blood 2013;121:962-970)。骨髄腫細胞株U266とホジキン細胞株L-428を用いてPU.1に結合している転写因子群を同定するための免疫沈降は順調に行われている。実際にPU.1に結合している蛋白の免疫沈降を行い、そのshotgun sequenceを予定している。全体としては順調にここまでは来ていると考える。形質細胞でPU.1をknockoutしたマウスはすでに作製済みであり、その意味で極めて研究は順調に進んでいる。meNP-CGGとフロイトアジュバントで免疫刺激してB細胞の形質細胞への分化を誘導してやると、その半数にM蛋白血症を認めている。現在はさらにその表現型を調べており、実験の進捗は順調といえる。
PU.1に結合している転写因子群の同定についてはこれまで通り推進していく予定である。最終的にはPU.1によってアポトーシスや細胞増殖停止を引き起こしている遺伝子を同定すると同時に、これらの遺伝子の発現を上昇させるようなPU.1を含めた転写を高めるような薬剤の開発が可能であるかをさらに検討していく。また現在までの達成度の理由にて述べたように我々はPU.1がHodgkin Lymphoma細胞にin vitro 及び in vivo においてその増殖を停止させ、apoptosisを誘導すること明らかにした。従って同じB細胞由来の造血器腫瘍である多発性骨髄腫においてもHodgkin lymphomaにおいても、PU.1はTumor Suppressorであることを我々は明らかにした。従って、この多発性骨髄腫とHodgkin LymphomaにおいてPU.1によって誘導される共通の細胞増殖停止及び細胞死のメカニズムが想定され、これを明らかにすることで、これらB細胞由来造血器腫瘍に共通な新規分子標的薬の開発を目指す。そのためにもPU.1に結合している転写因子群の同定とその下流の遺伝子の同定は、これらを分子標的とした治療薬の開発に必須であり、研究を更に推進する。形質細胞でPU.1をknockoutしたマウスはすでに作製済みであり、更にその表現系を調べていく予定である。実際にはこのマウスの骨髄細胞や脾臓の細胞を用いてFACSにてその表現型を解析したり、その病理標本を用いてその表現系を詳細に調べていく。また、これらの細胞を免疫不全マウスに移植してその表現系がどのようになるかを検討する。
PU.1に結合している転写因子群の同定についてPU.1を発現した骨髄腫細胞株U266とホジキン細胞株L-428などの細胞を大量に培養して蛋白をそこから抽出して蛋白二次元電気泳動を行ったり、質量分析装置にかけたり、shotgun sequenceを行ったりしてPU.1の結合蛋白を単離するために研究費を使用する。形質細胞でPU.1をknockoutしたマウスの表現系を調べていくためにFACSにてその表現型を解析したり、その病理標本を用いてその表現系を詳細に調べるための経費に研究費を用いる。このマウスの細胞を免疫不全マウスに移植してその表現系がどのようになるかを検討するために免疫不全マウスの購入を行うための費用にも必要である。現在までの達成度の理由にて述べたように我々はこれらのマウスで半数でM蛋白血症を認めることをつきとめており、さらに多発性骨髄腫を発症するか、あるいは免疫不全マウスにこの骨髄を移植してM蛋白血症が同様に発症するかを調べる。これらのマウスの骨髄中の形質細胞を用いてDNA microarrayを行い、wild-typeと比較して発現上昇している遺伝子群、発現低下している遺伝子群を同定する。これらのデータを学会発表すると同時に論文を作成して成果を発表する。そのための学会出張費及び論文の英文校正費、論文投稿費及び掲載料が必要である。
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