研究課題/領域番号 |
23591396
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
麻生 範雄 熊本大学, 大学院生命科学研究部, 准教授 (50175171)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 急性リンパ性白血病 / フィラデルフィア染色体 / IKZF1 / PAX5 / JAK2 / PRC2 / EZH2 / EED |
研究概要 |
成人B 細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)の遺伝子異常による予後予測を確立する目的で、本年度は主に既知の染色体と遺伝子異常を解析した。とくに小児B-ALLにおいて、近年同定されたIKZF1、PAX5、JAK2遺伝子異常が成人例においても認められるか検討した。PAX5とJAK2の異常の有無はPCR産物の塩基配列決定法により、IKZF1のドミナントネガティブアイソフォームIk6とIk10の同定はRT-PCR法により、大きな欠失はDNAのRQ-PCR定量法により検索した。その結果、IKZF1遺伝子異常を78例中41例(53%)に認めた。IKZF1異常はフィラデルフィア染色体(Ph)陽性例では24例中20例(83%)、陰性例では54例中21例(41%)とPh陽性ALLに有意に高頻度であった。一方、PAX5遺伝子変異は71例中5例(7%)、JAK2変異は1例も認めず、小児に比してまれであった。また、治療反応性との関係ではIKZF1遺伝子異常は小児では予後不良とされているが、成人B-ALLではIKZF1遺伝子異常の有無において5年全生存率に有意差を認めなかった。このように、小児と成人B-ALLにおいて、遺伝子異常の頻度のみならず、白血病細胞の生物学的な差異を認めた。また、遺伝子異常を認めない症例が成人B-ALLの約4割に存在することが明らかになった。 遺伝子異常が不明な成人B-ALLにおける新たな遺伝子異常を同定する目的で、近年注目されているヒストンDNAの修飾分子であるポリコーム抑制複合体(PRC2)のEZH2、EEDおよびSUZ12遺伝子変異の有無を検索した、その結果、EEDの新たな遺伝子変異を1例に同定し、解析を続行中である。さらに、B細胞の分化を調節する分子の異常の解析を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成人B 細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)における既知の染色体および遺伝子異常の解析は予定通りほぼ終了した。とくに小児B-ALLにおいて近年同定されたIKZF1、PAX5、JAK2遺伝子の異常の有無を解析し、小児と成人B-ALLにおいて、遺伝子異常の頻度のみならず、白血病細胞の生物学的な差異を明らかにした。また、遺伝子異常を認めない症例が成人B-ALLの約4割に存在することを明らかにした。成人B-ALLにおける新たな遺伝子異常の同定の目的で、ヒストンDNAの修飾分子であるポリコーム抑制複合体(PRC2)およびB細胞の分化を調節する分子の異常の解析を施行ないしは準備中である。このように、当初の計画に従っておおむね研究は順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は遺伝子異常を認めない成人B 細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)症例を中心に、新たな遺伝子異常の同定を進める予定である。研究計画書に記載のように、B細胞の分化を調節する分子として、PU.1、BCL11A、TCF3、FOXP1、LEF1およびBLNKなどの遺伝子異常の有無を解析する。一方で、SNPアレイ解析あるいは全エクソンシーケンス等を用いて科学的に異常の候補遺伝子を絞り込んで検索していく予定である。さらに、新たな遺伝子異常が同定されれば、その正常細胞および白血病細胞における機能解析を行なう。また、解析の終了した遺伝子異常については治療反応性との関係を全生存率などにより検討し、新たな予後予測因子となりうるか否かを解析する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今後は遺伝子異常がまだ明らかでない成人のB 細胞性急性リンパ性白血病症例における新たな遺伝子異常を同定することを目的にPCR産物の塩基配列解析をさらに推進する予定である。また、新たな遺伝子異常が同定されれば、その正常細胞および白血病細胞における機能解析を試験管内、細胞株あるいはマウスを用いて行なう予定である。これらの実験に多くの物品を必要とし、研究費の多くはPCR試薬、シーケンス試薬、細胞培養液、抗体などの試薬の購入に当てる予定である。また、学会や研究会において成果を公表すると同時に、情報収集を行なうために旅費や論文作成費にも一部を使用する予定である。なお、研究計画の変更は特にない。
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