研究課題
成人急性リンパ性白血病(ALL)の遺伝子異常による予後予測を確立する目的で、本年度は主にエピゲノムの遺伝子発現を調節するヒストンDNAのH3K27の修飾に関与する遺伝子異常を解析した。78例のALL症例において、H3K27のメチル化を促進するポリコーム抑制複合体(PRC2)のEZH2、EED、RbAp46/48およびSUZ12遺伝子、H3K27の脱メチル化を来すUTX、H3K27のアセチル化を来すCBP、さらに脱アセチル化を促進するRPD3遺伝子の変異の有無を検索した。これまでに、EZH2はリンパ腫と骨髄異形成症候群に変異が報告され、UTXおよびCBP変異は小児ALLにおいて変異が同定されている。その結果、UTXおよびEZH2遺伝子には変異を認めなかったが、8例(10%)にCBP遺伝子変異を同定し、2例(3%)にEED遺伝子変異を認めた。その他の遺伝子変異は解析を続行中である。それぞれ種々の病型に変異が認められ、CBP変異の2例はフィラデルフィア染色体陽性B細胞性ALLであり、1例はT細胞性ALLであった。また、EED変異も1例はB細胞性ALLであり、1例はT細胞性ALLであった。このことから、これらのエピゲネティック調節に関わる分子の変異は疾患の進展に関わることが予想された。また、EEDおよびCBP変異例は変異がない群と比較して、全生存率が不良の傾向を認めた。さらに、これらの分子の異常は治療の標的となりうる可能性が示唆された。遺伝子異常が不明な成人B-ALLにおける新たな遺伝子異常を同定する目的で、B細胞の分化を調節する分子の異常の解析を準備中である。
2: おおむね順調に進展している
成人急性リンパ性白血病(ALL)における既知の染色体および遺伝子異常の解析は予定通りほぼ終了した。昨年度、小児B細胞性ALLにおいて近年同定されたIKZF1、PAX5、JAK2遺伝子の異常の有無を解析し、小児と成人B-ALLにおいて、遺伝子異常の頻度のみならず、白血病細胞の生物学的な差異を明らかにした。今年度は、成人ALLにおける新たな遺伝子異常の同定の目的で、ヒストンDNA H3K27の修飾分子であるポリコーム抑制複合体(PRC2)、UTX、CBPおよびPRD3遺伝子解析を施行した。成人ALLにおいては小児ALLと一部異なり、EEDおよびCBP遺伝子変異を一定の割合で同定し、予後に関与する可能性を明らかにした。また、EED遺伝子変異の機能解析の目的でcDNAクローンを作成中である。このように、当初の計画に従っておおむね研究は順調に進展していると考える。
今後は遺伝子異常を認めない成人B 細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)症例を中心に、新たな遺伝子異常の同定を進める予定である。研究計画書に記載のように、B細胞の分化を調節する分子として、PU.1、BCL11A、TCF3、FOXP1、LEF1およびBLNKなどの遺伝子異常の有無を解析する。一方で、全エクソンシーケンス等を用いて科学的に異常の候補遺伝子を絞り込んで検索していく予定である。さらに、新たな遺伝子異常が同定されれば、その正常細胞および白血病細胞における機能解析を行なう。また、解析の終了した遺伝子異常については治療反応性との関係を全生存率などにより検討し、新たな予後予測因子となりうるか否かを解析する予定である。
今後は遺伝子異常がまだ明らかでない成人の急性リンパ性白血病症例における新たな遺伝子異常を同定することを目的にPCR産物の塩基配列解析をさらに推進する予定である。また、新たな遺伝子異常が同定されれば、その正常細胞および白血病細胞における機能解析を試験管内、細胞株あるいはマウスを用いて行なう予定である。これらの実験に多くの物品を必要とし、研究費の多くはPCR試薬、シーケンス試薬、細胞培養液、抗体などの試薬の購入に当てる予定である。また、学会や研究会において成果を公表すると同時に、情報収集を行なうために旅費や論文作成費にも一部を使用する予定である。なお、研究計画の変更は特にない。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件)
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