研究課題/領域番号 |
23591397
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
下田 和哉 宮崎大学, 医学部, 教授 (90311844)
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キーワード | PMF / JAK2 / USF1/2 / TET2 |
研究概要 |
原発性骨髄線維症の約半数の症例にJAK2 V617F変異がみられる。骨髄線維症を発症するJAK2 V617F発現マウスのLin(-)Sca1(+)の遺伝子発現を、野生型マウスのそれと比較し、HOXB4、TGF-b1の遺伝子発現が亢進していることを見出した。HOXB4、TGFb1はともに転写因子USF1/2による発現調節をうけることが知られているため、その細胞内シグナル伝達経路を検討した。USF1/2の活性化は、トロンボポエチン(TPO)レセプターMPLを発現する細胞に特異的にみられること、TPO刺激に代わり、JAK2 V617F変異でも生じること、ヒトとマウスでこの経路の構成要素は異なっており、ヒトではMAPKの活性化に引き続きUSF1の転写能が、マウスではPI3Kの活性化に引き続きUSF2の転写能が亢進することを明らかとした。 JAK2 V617F発現マウスで発現が亢進していたHOXB4は、その過剰発現により造血幹細胞の自己複製能を亢進させることがすでに報告されている。HOXB4欠損JAK2 V617F発現マウスを作製し末梢血数の検討を行った。JAK2 V617F発現マウスでみられる貧血、血小板数増加は同様にみられていた。PMFを含む骨髄増殖性腫瘍の10~20%にはTET2の機能喪失型変異がみられることから、TET2欠損マウスの解析を行った。TET2が欠損しただけでは骨髄増殖性腫瘍は発症しないこと、末梢血の血球数などには変化ないものの、造血幹細胞活性が亢進することを見出した。TET2欠損造血幹細胞を野生型由来細胞と競合移植した場合、個体の造血はTET2欠損細胞により占められることから、骨髄増殖性腫瘍のクロナリティ―の獲得にはTET2の機能喪失が重要であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
原発性骨髄線維症の約半数にJAK2変異が認められ、JAK2阻害剤の効果に期待がかかっているが、骨髄の線維化、変異JAK2のallele burden、貧血などの症状、所見は、JAK2阻害剤による改善効果に乏しく、新規治療法が望まれている。我々が作成した変異JAK2発現マウス原発性骨髄線維症(PMF)の造血幹細胞分画ではHOXB4、TGFb1の発現が亢進していること、これらの転写亢進はUSF1/2により担われていることから、そのシグナル伝達経路の解明と、それを標的とした新たな治療法の開発を目指した。 HOXB4、TGFb1の転写を亢進させるUSF1/2の活性化は、TPO刺激特異的に生じ、G-CSF、EPO刺激では生じないこと、ヒトとマウスでこの経路の構成要素は異なっており、ヒトではMAPKの活性化に引き続きUSF1の転写能が亢進すること、マウスではPI3Kの活性化に引き続きUSF2の転写能が亢進することを明らかとし、計画を予定通り達成できている。 過剰発現により造血幹細胞の自己複製能を亢進させることがすでに報告されているHOXB4の、骨髄線維症における機能同定に関しては、HOXB4欠損JAK2 V617F発現マウスを作製し検討中である。現在までの解析では、JAK2 V617F発現マウスでみられる貧血、血小板数増加はHOXB4欠損JAK2 V617F発現マウスでも同様にみられている。なお、骨髄線維症を含む骨髄増殖性腫瘍の10~20%にはTET2の機能喪失型変異がみられることから、当初の計画にはなかったがTET2欠損マウスの解析を行い、骨髄増殖性腫瘍 のクロナリティ―の獲得にはTET2の機能喪失が重要であることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
MPL-JAK2-USF1/2経路のシグナル伝達機構の解明に関しては、in vitroでその経路を明らかにできたため、その知見をもとに、in vivoでの同定を行う。USF1の5’領域を欠失し、ダイマー形成領域は保存されたUSF1変異体がUSF1/2の転写活性能を抑制することから、変異JAK2発現マウス由来の骨髄細胞にUSF1/2変異体を導入し、それをレシピエントマウスに移植して表現型を検討する。変異JAK2発現マウスの骨髄を移植すると、レシピエントマウスは骨髄線維症を発症することはすでに確かめており、in vivoでUSF1/2の転写能が阻害された場合に、骨髄線維症のどの症状が改善するかを明らかとすることにより、USF1/2の活性化の意義を明確にできることが期待できる。 また、USF1/2阻害によるPMF新規治療法の開発のために、上記で作成する変異USF導入細胞を移植したレシピエントマウスにJAK阻害剤を投与し、変異JAK2発現マウスにJAK阻害剤を投与した場合の効果を検討することにより、JAKの阻害とUSF1/2阻害の協調作用による骨髄線維症の治療を検討する。将来の臨床応用を考える際には、遺伝子導入ではなく薬剤によるこの経路の阻害が現実的である。昨年までの研究により、マウスではPI3Kの活性化に引き続きUSF2の転写能が亢進することを明らかとしており、変異JAK2発現マウスに、JAK阻害剤とPI3K阻害剤を併用することにより、薬剤による改善効果を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
移植実験、薬剤投与実験に、変異JAK2発現マウス、移植したレシピエントマウスの飼育が必要であり、その費用として20万円を予定している。また、骨髄細胞への遺伝子導入、細胞培養のための費用として、生化学試薬 40万円、細胞培養試薬 30万円を予定している。 成果を学会発表、論文発表する予定であり、その費用として20万円を予定している。
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