研究課題
近年では多くの悪性腫瘍においてDNAのメチル化といったエピジェネテッィクな遺伝子異常が腫瘍の発生や進行において重要な役割を果たしていることが報告されてきている.その一例として,LINE-1等のDNA繰り返し配列のグローバルな低メチル化が染色体不安定性を生じるという報告がある.多発性骨髄腫における染色体異常は極めて多様であり、その解析は、骨髄腫の発生・進展機序の解明に有用である。染色体異常は多発性骨髄腫の予後因子としてこれまでにも広く知られるところであることから,我々は多発性骨髄腫におけるDNA繰り返し配列のメチル化レベルの評価を行い,DNAメチル化レベルと染色体異常との関連および予後やその他の臨床情報との関連に関し検討を行うこととしたゲノム上に繰り返し現れる反復配列のDNAメチル化は、ゲノム全体のメチル化レベルを反映すると注目されている。長鎖散在反復配列(long interspersed nuclear element ; LINE)の代表であるLINE-1はゲノムの17%を占めており、興味深いことにレトロトランスポゾンの一種でもある。近年の報告では、がんでみられるゲノムワイドな低メチル化と染色体不安定性との関連が、LINE-1低メチル化に起因すると示唆されている。今回骨髄腫におけるLINE-1のメチル化レベルを解析したところ、正常形質細胞と比較し、MGUS症例、骨髄腫症例へと進展するにつれて、そのメチル化レベルが低下することを見出した。今後骨髄腫症例におけるLINE-1低メチル化が予後に及ぼす影響を検討する予定である。さらに、個々の症例においてアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション法を用いて染色体異常を解析し、LINE-1メチル化レベルとの関連も検討する予定である。
2: おおむね順調に進展している
多発性骨髄腫における染色体異常は極めて多様であり、その解析は、骨髄腫の発生・進展機序の解明に有用である。本研究は、次世代シークエンサーを用いたゲノム領域のDNA異常メチル化の解析を組み合わせ、ゲノム・エピゲノム異常を包括的に解析しすることが目的のひとつであった。これまでの研究でLINE-1のメチル化が正常の形質細胞、MGUS、多発性骨髄腫と病期が進行するに従い、低メチル化となっていることを確認した。このことは正常の形質細胞、MGUS、多発性骨髄腫と病期が進行するに従い染色体の欠損、転座が生じやすいことを意味しており、予後との関係が注目される。今後、LINE-1の低メチル化と多発性骨髄腫患者の予後との関係を検討する予定である。
今後、骨髄腫細胞株や臨床検体におけるDNA異常メチル化を網羅的に解析する目的で、次世代シークエンサーを用いて、メチル化しているゲノム領域を明らかにする。さらに、臨床検体におけるゲノム構造の異常やメチル化異常と、臨床情報における表現型(特に治療抵抗性)との相関を解析する。GeneSpring などのソフトウェアを用いてクラスター分析を行い、抗癌剤の効果予測に関与するゲノム構造異常とメチル化異常の同定を試みる。遺伝子発現を抑制するメチル化異常に関しては、遺伝子導入やメチル化阻害剤による標的遺伝子の発現回復により、薬剤感受性・細胞死抵抗性の変化に寄与するかどうかを検証する。同定されたゲノム構造異常とメチル化異常を指標とし、抗癌剤感受性グループと抵抗性グループとを層別化し、薬剤抵抗性の予測システムを開発する。
aCGHマイクロアレイ、aCGHラベル化試薬、プライマー、核酸抽出キット、Real-time PCR 、抗体 (MACS, FACS, Wb)、プラスチック器具、細胞培養液・FCS等を購入する予定。
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