研究概要 |
真核細胞は、DNA障害性のストレスに暴露されるとcap-dependentな翻訳を停止する。FOSは、翻訳停止時に迅速にその発現が増加する早期反応遺伝子である。骨髄異形成症候群(MDS)患者から分離した末梢血好中球において、翻訳阻害時のFOS mRNAの増加率が健常好中球における増加率の半分にとどまることを見出した。FOS mRNA のbasal levelは健常人と同等であることから、MDS患者血球ではFOS mRNA の誘導過程に何等かの異常があると考えられた。そこでまず、好中球において翻訳阻害時のFOS誘導には、FOS転写の増加とmRNA分解抑制(=mRNA安定化)が関与する事を確認し、MDS血球ではFOS転写活性は健常血球と同等であるがFOS mRNAの安定化が不十分であるためにFOS誘導不全が起こることを突き止めた(Feng et al, PLoS ONE; 8(4):e61107, 2013)。更に我々は、好中球において、FOS mRNA の安定性は3'UTRに結合するmicroRNA、AU-rich element (ARE)に結合を介するmRNA安定化蛋白HuRによって制御されことを確認した。MDS好中球のFOS mRNAには、coding regionにも3'UTRにも変異は検出されず、HuRの発現低下が認められたのは患者の2割未満だった。そこで、FOS mRNAに結合し得るmicroRNAをdatabaseから抽出し、その発現を解析したところ、健常血球に比べてMDS血球で有意に増加している二つのmicroRNAを同定した。現在は、これらのmiRNAの過剰発現が好中球機能異常と造血細胞のアポトーシス促進性のサイトカイン産生に関わることを示唆する結果を得、そのメカニズムの詳細を検討中である。このメカニズムが明らかになり、患者血球で検証できれば、本研究で見出したFOS発現制御異常という新な観点からMDSの血球異常成立を説明することが可能となると期待する。
|