研究課題
BCR-ABLチロシンキナーゼ(TK)に対する特異的阻害剤の開発により慢性骨髄性白血病(CML)の治療予後は劇的に改善したが、完治はいまだに困難である。白血病細胞は生体内では骨髄環境構成因子の支持・庇護のもとに生存・増殖している。本研究ではCML細胞における治療抵抗性を促進する骨髄環境特異的な分子メカニズムを網羅的に探索・解明し、その制御法の探索による新規の分子標的治療法の確立を目指す。CML由来細胞株ではfibronectin(FN)や骨髄間質細胞HS-5との共培養によりTKIや抗ガン剤に対する感受性低下が誘導た。この培養条件におけるCML細胞株での遺伝子発現変化をAffymetrix Gene Chip arrays、Ingenuity pathway analysis softwareにてシグナル経路を解析したところ、Galectin-3(Gal-3)の発現亢進が同定された。CML細胞株MYL、K562、BV173,MYLにGal-3を遺伝子導入したところ、Gal-3過剰発現細胞は親株に比べてより高い細胞増殖能を有した。また、Gal-3過剰発現によりDOX、Ara-C、VP-16、VCRのほか、BCR-ABL TKIであるimatinib、dasatinibによるアポトーシス誘導効果が明らかに減弱した。これはGal-3強制発現状態ではAkt, Erkのリン酸化による活性化、Mcl-1の高発現が誘導されたこととの関連が推測される。Gal-3過剰発現MYL細胞はより、高度の細胞遊走能を有することも明らかになった。Gal-3のin vivo機能を検討したところ、Gal-3はCML細胞の骨髄環境への安定的生着と持続的棲息を促進し、CML慢性期類似の病態形成に促進的に関与するものと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
CML細胞株において骨髄微小環境の疑似モデルである骨髄間質細胞との共培養によってGal-3が特異的に発現誘導されること、Gal-3発現によって細胞増殖、ならびに細胞死抵抗性の亢進による薬剤耐性が誘導されることが明らかになった。さらに本研究によりGal-3がCML細胞の骨髄腫瘍環境における安定的棲息、病態の維持を正に促進することが明らかになった。CMLに対する更なる新規分子標的治療戦略開発において重要と考えられる。同時にGal-3の発現誘導における分子メカニズム、Gal-3により支配される下流のエフェクター分子についてはいまだに不明点が多く、現在も研究を継続中である。
骨髄腫瘍環境におけるGal-3発現誘導メカニズムについて明らかにする。Gal-3の発現は転写レベルでの亢進であることが明らかであるため、骨髄腫瘍環境特異的に活性化する転写因子について網羅的に検討する。くわえて、Gal-3過剰発現によってautocrine、paracrineに白血病の増殖促進をもたらす液性因子の解析を進める。培養上清を液体クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどにより分離し、責任成分を同定する。また、Gal-3過剰発現による治療抵抗性亢進を克服しうる小分子化合物の探索的研究を進める方針である。
平成24年度交付予定の1430000円(直接経費1100000円、間接経費330000円)のうち、直接経費について、全額を物品費として年度内に使用予定である。
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Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻: 108 ページ: 17468-17473