研究課題
多発性骨髄腫など骨髄増殖性の造血器悪性腫瘍では、造血幹細胞の維持される骨髄微小環境との相互作用が薬剤耐性獲得に重要な役割を果たしている。そこで、セルカルチャーインサートを用いて骨髄腫細胞株を骨髄ストローマ細胞と接着状態で共培養し、抗がん剤に対する接着耐性を再現するin vitroのシステムを構築した。そして、このシステムを用いて骨髄腫細胞の抗がん剤処理時のヒストン修飾様式の変化を接着時と非接着時で比較した。その結果、ストローマ細胞と非接着状態では抗がん剤処理によるアポトーシスの誘導に伴いヒストンH3K27のトリメチル化(H3K27me3)の誘導が観察されたが、接着状態ではアポトーシスの抑制と共にH3K27トリメチル化の抑制が観察された。なお、H3K27トリメチル化と同様転写抑制に働くH3K9、また、転写活性化に働くH3K4やH3K36のメチル化など他の多くのヒストン修飾様式には接着/非接着状態間で違いは見られなかった。一方、抗がん剤作用時に誘導されるH3K27のトリメチル化をメチル化阻害剤(DZNeP)により抑制すると細胞死の誘導は有意に抑制された。以上より、多発性骨髄腫細胞の接着耐性獲得には、H3K27のトリメチル化の抑制が重要な役割を担っている可能性が明らかになった。なお、H3K27トリメチル化を介して負に制御される遺伝子として、多発性骨髄腫細胞の生存に必須のHOXA9やIRF4がある。接着シグナルを介したEZH2不活性化によるこれら遺伝子の発現亢進が接着耐性獲得に働いている可能性が示唆される。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度中の目標は、耐性に鍵となるヒストンコードを明らかにすることと、その下流で発現制御を受ける遺伝子の中から耐性化の鍵分子を明らかにすることであった。耐性に鍵となるヒストンコードとしてH3K27トリメチル化を鍵分子としてHOXA9やIRF4を同定できたことから、目標は概ね達成できたと考える。
まず、H3K27トリメチル化抑制を介した接着耐性獲得機構の作業仮説を以下に示す。骨髄腫細胞はストローマ細胞との接着、特に接着耐性の鍵分子であるVLA-4からのシグナルにより、integrin-linked kinase (ILK)を始めとする種々のkinaseを活性化する。H3K27のトリメチル化酵素であるEZH2は、CDK2やAKTなどのkinaseによりリン酸化を受けると不活性化し、メチル化活性が失われる。ここから、接着を介して活性化した何らかのkinaseが、EZH2をリン酸化して不活性化させてH3K27トリメチル化を抑制している可能性が示唆される。当面は、この仮説の検証を進めるが、これらの機構が検証されれば、接着耐性抑制に有効な治療薬としてEZH2のリン酸化kinaseに対する阻害剤の有効性が示唆される。以下の計画から、有効な阻害剤をスクリーニングし、in vitro及びin vivoにおける前臨床試験により接着耐性を克服しうる新規治療法の開発を進める。・kinase阻害剤のライブラリーやkinase遺伝子のノックダウン等により、EZH2リン酸化に関与するkinase群を同定し、VLA-4からEZH2リン酸化に至るシグナル伝達経路を解明する。・Kinase阻害剤ライブラリーの中から抗腫瘍効果を示し、EZH2リン酸化と接着耐性抑制に有効な阻害剤を同定する。阻害剤の効果をin vitro及びマウスモデルを用いたin vivoで検証する。さらに従来の抗がん剤との併用効果について、isobologramやマウスモデルを用いて検証する。
骨髄腫細胞株の培養に用いる培地や血清など細胞培養関連試薬について約20万円程度を、制限酵素やPCR酵素など分子生物学関連試薬について約20万円程度、ウェスタンブロットやフローサイトメトリー解析に用いる抗体など免疫関連試薬について約30万円程度と骨髄腫細胞の移植モデルに用いる免疫不全マウスの購入やマウス維持に必要な実験動物費について約40万円程度、合計で110万円程度の予算を見込んでおり、今年度(平成25年度)分の予算は年度内にすべて使用する計画である。
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pLoS One
巻: 8 ページ: e60649
10.1371/journal.pone.0060649.