研究課題
転写因子FOXO3Aは脱リン酸化されることによって核内へと移行し、標的分子の遺伝子発現を制御し、アポトーシスを誘導する。本研究では、FOXO3aの脱リン酸化を担うPP2Aの活性化作用を有する低分子化合物FTY720とsodium selenateに注目し、これらの薬剤がAPL細胞に対して抗腫瘍効果を発揮するか否かについて、検討することを目的としている。 本年度は、まずこれらの薬剤が、APL細胞にアポトーシスを誘導するかを、細胞増殖、アネキシンVアッセイ、カスパーゼ3の切断などを指標に検討した。その結果、APL細胞株NB4を始め、APLの標準治療薬であるATRA(レチノイン酸誘導体)耐性のNB4/ARやUF-1細胞株においても、これらの薬剤は、アポトーシスを誘導することが明らかになった。続いて、これらの薬剤が、PP2Aの活性化を引き起しているかについて、PP2Aの基質であるFOXO3aのスレオニン32番(T32)のリン酸化状態について、薬剤処理後の変化を経時的に観察し、評価を行なった。処理後1時間以内では、T32リン酸化の著しい低下が見られたことから、これらの薬剤によるPP2Aの活性化が確認された。そこで、PP2Aの活性化を阻害するオカダ酸添加によりPP2Aの活性化を阻害することで、これらの薬剤に寄る殺細胞効果が、減少するかについて検討を行なったが、予想に反して、オカダ酸添加による有為な効果は、見られなかった。さらに、処理後数時間後からFOXO3aのリン酸化が逆に亢進することなどから、これらの薬剤によるAPL細胞へのアポトーシスの誘導は、FOXO3aの脱リン酸化による核内への移行とは異なるメカニズムである可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
FTY720とsodium selenateによるAPL細胞に対するアポトーシス誘導が示され、1年目の計画はほぼ完了している。
我々の予想通り、FTY720とsodium selenateによるAPL細胞に対するアポトーシス誘導は示されたが、アポトーシスの誘導へのFOXO3aの脱リン酸化の亢進と核内への移行に関しては、予想とは異なる結果が得られている。今後は、FOXO3aが、これらの薬剤によるアポトーシス誘導に必須であるかどうか、遺伝子発現のノックダウンなどを試みて、検討する予定である。いずれにしても、これらの薬剤のAPL細胞に対する殺細胞効果は確認できたので、計画通り、マウスモデル系を用いて、in vivoでの抗腫瘍効果について検討を行なう予定である。
未使用額は発生していない。次年度は当初の計画通り経費を支出する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件)
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