研究課題/領域番号 |
23591409
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
今井 陽一 東京女子医科大学, 医学部, 講師 (10345209)
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キーワード | 国際情報交換 |
研究概要 |
平成23年度の研究で、多発性骨髄腫細胞株においてCXCR4の阻害による接着分子インテグリンの機能阻害とHDAC阻害剤投与の組み合わせにより増殖抑制・アポトーシスが誘導されることを明らかにした。さらに、この増殖抑制・アポトーシスの誘導における鍵分子としてホメオボックス蛋白質HOXA9を同定し、HOXA9がHDAC阻害剤の抗骨髄腫効果の標的である可能性が想定された。 平成24年度はHDAC阻害剤によるHOXA9の発現低下の分子機構を解析した。その結果、HOXA9の発現が転写の抑制を介して低下することが見出された。一方、HOXA9はtrithorax蛋白質であるMLL (mixed-lineage leukemia)によって発現が制御される。LBH589のMLLに対する効果を検証したところ、LBH589処理により骨髄腫細胞株でのMLL蛋白質の発現量が低下し、LBH589はMLLの蛋白質としての安定性に関与すると考えられた。本研究により、多発性骨髄腫細胞の造腫瘍性におけるMLLによるHOXA9の制御機構の重要性が見出された(unpublished data)。このようにHDAC阻害剤は蛋白質の安定化を阻害して、抗腫瘍効果を発揮することが明らかになった。さらに、研究代表者はHDAC阻害剤によって、発現が低下する蛋白質を検索したところ、カルシニューリンのサブユニットであるPPP3CAの蛋白質の発現量がLBH589処理により低下した。また、LBH589とカルシニューリン阻害剤の併用により多発性骨髄腫細胞株の増殖が大幅に抑制されることを見出した(unpublished data)。以上の知見から、多発性骨髄腫の造腫瘍性においてカルシニューリンが大きな役割を果たすことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究では、多発性骨髄腫の治療におけるHDAC阻害剤の治療標的としてMLL-HOXA9とカルシニューリンが重要な役割を果たすことを明らかにした。HDAC阻害剤は、多発性骨髄腫細胞に対する抗腫瘍効果において、接着分子インテグリンの機能阻害を有するCXCR4の阻害剤との相乗効果があることを平成23年度の研究で見出した。したがって、HDAC阻害剤の治療標的を明らかにすることは、本研究が目指す接着分子の活性化による多発性骨髄腫の難治性の獲得機構の解明に寄与すると考えられる。したがって、3年計画の本研究の2年度目として目標をおおむね順調に達成していると考えられる。 特に、カルシニューリンはこれまで、多発性骨髄腫も含めて悪性腫瘍における意義は全く明らかではなかったが、本研究により多発性骨髄腫の造腫瘍性に大きな役割を果たすことを解明した。カルシニューリンは多発性骨髄腫の症例検体のデータの解析から、進行した症例で発現が高い傾向にあることを示した。カルシニューリンの造腫瘍性の鍵分子を同定することはカルシニューリンの造腫瘍性を特異的に阻害する新規薬剤の開発につながると考えられる。すでに、HDAC阻害剤LBH589とカルシニューリン阻害剤の併用が骨髄腫細胞の増殖を抑制することを見出したが、本計画で得られた知見により、これまでにない新たな作用機序の薬剤開発が可能となる。カルシニューリンの造腫瘍性の鍵分子を特異的に抑制することにより、正常細胞に影響が少なく副作用の少ない治療法が実現されることが期待される。これらの成果をもとに本研究の目的である、新規治療法の開発基盤の形成が可能になり、多発性骨髄腫の根治療法の樹立に大きく役立つと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
多発性骨髄腫の造腫瘍性において大きな役割を果たすことが示されたカルシニューリンは蛋白質脱リン酸化酵素である。平成25年度は、カルシニューリンの造腫瘍性の鍵分子を明らかにすることを目的にカルシニューリンによって脱リン酸化される分子のうち多発性骨髄腫細胞株の増殖亢進あるいはアポトーシスの抑制に関わる分子を同定する。多発性骨髄腫細胞株において、FLAGで標識したPPP3CAについてレンチウイルス・ベクターを用いて高発現させる。抗FLAG抗体による免疫沈降、SDS-PAGEにより多発性骨髄腫細胞株内でPPP3CAと結合する蛋白質を分離する。分離された蛋白質についてMALDI/TOFMS (Matrix Assisted Laser Desorption-Ionization/Time of Flight Mass Spectrometry) を用いて同定する。同定された結合蛋白質とPPP3CAを293T細胞株で高発現させ、実際にPPP3CAにより脱リン酸化が誘導されるかどうか、セリン・スレオニンリン酸化検出抗体を用いて確認する。PPP3CAによる脱リン酸化が確認されたカルシニューリンの造腫瘍性の鍵分子の候補について、多発性骨髄腫細胞株において強制発現あるいはshRNAによって発現を抑制することにより細胞株の増殖・アポトーシス能が変化するかどうか解析する。鍵分子候補の生体内での機能は、骨髄腫細胞株を移植したNOD-SCIDマウスにおいて、鍵分子候補の発現をレンチウイルス・ベクターによる強制発現あるいはshRNAによる発現抑制で変化させ解析する。また、骨髄腫細胞株にVLA-4 alfa鎖の恒常的活性化型変異体(Imai Y et al, Blood 2008)を導入し、治療抵抗性をもたらすVLA-4の活性化状態でカルシニューリンの造腫瘍性の鍵分子の機能がどのように変化するか解析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
多発性骨髄腫細胞株内でPPP3CAと結合する蛋白質の同定を免疫沈降、SDS-PAGE、MALDI/TOFMSを用いて行う。蛋白質の発現量やリン酸化・PPP3CAとの結合性の変化は蛋白質電気泳動、抗体によるWestern blotting、免疫沈降法を利用して解析する。多発性骨髄腫細胞株における遺伝子発現の誘導あるいは抑制についてレンチウイルスベクターを用いて行う。以上の遂行のために、抗体30万円、試薬20万円の予算を計上している。さらに、研究成果の発表のため日本血液学会、国際骨髄腫学会、米国血液学会への参加を予定し旅費を30万円計上している。なお、平成24年度で計画した骨髄腫細胞株移植NOD-SCIDマウスについて、次年度使用の研究費50万円を充てる。
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