研究課題
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(Human T-cell leukemia virus type 1; HTLV-1)は一部の感染者に成人T細胞白血病(Adult T cell leukemia; ATL)を引き起こす。他のウイルス感染症と同様に、感染者のHTLV-1特異的T細胞応答は感染細胞の増殖を制御する重要な因子であり、ATL発症者ではそれが極めて低いことから、HTLV-1特異的T細胞応答の低下がATL発症に大きく関与していると考えられている。このようなHTLV-1特異的T細胞応答の低下を来す免疫抑制機序は未だ明らかになっていないが、その解明は新たなATL発症予防法や治療法の開発に重要な情報を提供できると考えられる。平成23年度では、HTLV-1感染無症候キャリア(AC)をはじめとするHTLV-1感染者におけるHTLV-1Tax特異的CD8+T細胞の頻度およびその機能を評価したところ、ACの中にTax特異的CD8+T細胞は検出されるものの、その機能がほぼ完全に損なわれているケースが存在した。しかし、このACのCMV特異的CD8+T細胞はペプチド刺激により増殖したうえ、感染細胞除去によるTax特異的CD8+T細胞の機能回復が認められなかったことから、このACで認められたTax特異的CD8+T細胞の機能喪失は、抗原提示細胞の機能低下や感染細胞による抑制が原因ではなく、Tax特異的CD8+T細胞自身の機能低下によるものである可能性が示唆された。これはHTLV-1感染者に認められる免疫抑制が無症候期にHTLV-1特異的に始まるケースがあることを示しており、ATL発症者に見られる免疫抑制の原因解明や、ATL発症予防、治療を目的とした新規免疫療法を開発する上で非常に重要な知見である。なお、この結果は論文としてRetrovirologyに投稿し掲載された。
2: おおむね順調に進展している
H23年度では、HTLV-1感染者のHTLV-1特異的T細胞の機能評価、感染者の免疫抑制状態に関する情報を収集し、免疫抑制状態にある無症候感染者の中には、HTLV-1特異的T細胞自身の機能低下が免疫抑制の原因となっている可能性を示唆するケースが存在することを示すことができ、概ね順調に進んでいると考えている。
H24年度もH23年度と同様に、HTLV-1感染者のHTLV-1特異的T細胞の機能評価を行うとともに、HTLV-1感染者、特にATL発症者における抗原提示細胞の機能評価を行う予定である。
H23年度は主として感染者のHTLV-1特異的T細胞応答の評価を行っており、それに必要な多くの試薬類は、すでに所持しているもので概ねまかなえた。H24年度以降は、研究遂行にあたりこれらの高額試薬の購入が発生するとともに、抗原提示細胞の機能評価を進めるための新規試薬、サイトカイン、実験動物などを購入する予定である。
すべて 2011
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Retrovirology, (Corresponding author)
巻: 8 ページ: 100
10.1186/1742-4690-8-100