研究課題
成人T細胞白血病(adult T cell leukemia; ATL)は一部のヒトT細胞白血病ウイルス1型(Human T cell leukemia virus type 1; HTLV-1)感染者に発症する極めて予後不良の悪性腫瘍である。HTLV-1感染において、HTLV-1特異的T細胞性免疫は感染細胞の増殖を制御する重要な因子であるが、ATL患者ではそれが極めて低いことから、このT細胞性免疫の低下がATL発症に大きく関与していると考えられている。したがって、未だ明らかになっていないHTLV-1特異的T細胞性免疫の低下を来す機序の全容解明は、新たなATL発症予防法や治療法の開発に重要な情報を提供できると考えられる。平成24年度は、引き続き感染者のHTLV-1特異的CD8+T細胞の機能解析を行うとともに、感染者の単球より樹状細胞を誘導し、その機能解析を実施したところ、その樹状細胞は機能を保持しており、感染者に認められるTax特異的CD8+T細胞の機能喪失は抗原提示細胞の機能低下が主要な原因である可能性は低いと考えられた。そこで、抗原特異的CD8+T細胞の維持に重要であることが知られているCD4+T細胞に着目し、感染者のHTLV-1特異的CD4+T細胞の機能解析を行うため、同種骨髄移植を行い、寛解に至ったATL患者からHLA-DR1拘束性エピトープ(Tax155-167)を同定し、HLA-DR1/Tax155-167テトラマーを作製した。このテトラマーは、HTLV-1感染者のTax155-167特異的CD4+T細胞を検出することができ、HTLV-1感染における免疫抑制機序の解明に大いに貢献できると考えられる。なお、エピトープに関する結果は論文としてJournal of Immunologyに投稿し掲載された。
2: おおむね順調に進展している
H24年度では、H23年度に引き続き、HTLV-1感染者のHTLV-1特異的T細胞の機能評価、感染者の免疫抑制状態に関する情報を収集するとともに、感染者の単球由来樹状細胞の機能解析を行い、HTLV-1特異的CD8+T細胞の機能喪失に、抗原提示細胞の機能低下が主要な原因となっている可能性は低いという結果をこれまでのところ得ている。また、CD8+T細胞の維持に重要な細胞の1つであるCD4+T細胞に着目し、その機能解析を詳細に行うため、HTLV-1特異的CD4+T細胞が認識するエピトープを同定し、HTLV-1特異的CD4+T細胞を検出するテトラマーを作製することができ、概ね順調に進んでいると考えている。
H25年度もH24年度と同様に、HTLV-1感染者のHTLV-1特異的T細胞の機能評価、感染者の免疫抑制状態に関する情報収集、感染者の単球由来樹状細胞の機能解析を行うとともに、HTLV-1特異的CD4+T細胞のHTLV-1感染状態の検討、機能評価を実施する予定である。また、得られた結果をまとめて、HTLV-1感染によるHTLV-1特異的T細胞応答の抑制機序に関する有用な情報を提供したい。
H25年度もH24年度と同様に、研究遂行に必要な高額試薬、サイトカイン、実験動物の購入に使用する。また、得られた結果を国際学会などで発表するための旅費に使用する予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 産業財産権 (1件)
Journal of Immunology
巻: 190 ページ: 4382-4392
10.4049/jimmunol.1202971.