研究課題
我が国で実施されている同種造血幹細胞移植の約7割は非血縁ドナーから行われている。原則としてHLA-A,B,DR座の計6つのHLAが一致したドナーを選択するが、他のHLA座、特にDPが不一致となる確率は高い。HLA-DP不一致ドナーからの移植は一致ドナーからのそれと比べて、白血病再発率が有意に低下し、一方grade 3以上の重症急性GVHD発症率は上昇しない。このことから、造血幹細胞移植ドナー由来のTリンパ球や抗体は、不適合DPを発現している残存患者白血病細胞を攻撃し、患者上皮細胞は攻撃しないもしくは弱く攻撃する、との仮説を立てることができる。ところが、HLA-DPタンパクが白血病細胞でも発現しているか否かについて詳細に検討した報告はほとんどない。そこで我々はまず、当施設の白血病患者から、文書による説明を行い同意を得た上で白血病細胞の提供を受け、それらの細胞表面上のHLA-DP発現の有無を検討した。AML、ALL、ATLLの腫瘍細胞について、初診時、再発時、更には移植後再発時など様々な時点でのDP発現をFCMで評価したところ、いずれの白血病細胞表面においてもDPの明らかな発現を確認することができた。次に、AML、ALLの腫瘍細胞のうち、CD34陽性CD38陰性分画のみに着目して同様に評価したところ、それら白血病幹細胞を含む分画においてもDP発現を明確に認めた。一方、患者から採取した皮膚組織由来の線維芽細胞では、サイトカイン(IFN等)で刺激しない限り、DPの発現は認めなかった。以上のことから、患者DP特異的Tリンパ球はGVL効果を誘導し、GVHDは誘導しないもしくは弱く誘導する可能性があると考え、今後、ヒト体内で発生した不適合DPに対するTリンパ球反応と抗体反応の実態を解明し、移植後GVL効果とGVHDにおけるその意義を明らかにするべく本研究を進める。
2: おおむね順調に進展している
初年度は血液腫瘍細胞におけるHLA-DPの発現を詳細に検討することができた。患者からの検体集積にやや時間を要したが、仮説通りの結果が得られており、おおむね順調に進展していると思われる。今後さらに研究を加速させたい。
DP不適合移植を受けた患者の末梢血や骨髄に含まれる患者DP特異的なドナー由来Tリンパ球の存在を、ELISA法やELISPOT法を用いて定量的かつ経時的に測定し、移植後再発やGVHDの発症および重症度との相関を明らかにする。また移植後患者末梢血および骨髄から患者DP特異的Tリンパ球を分離し、移植前保存患者血液細胞と白血病細胞、および樹立した皮膚線維芽細胞に対する細胞傷害活性を、Cr放出試験などの方法を用いて測定し、その結果と移植後再発やGVHD発症・重症度との相関を明らかにする。可能ならば、分離したDP特異的Tリンパ球のクローニングも開始したい。一方、DP不適合移植後患者の血清中に含まれる患者DP特異的抗体についても、定量的かつ経時的に測定し、移植後再発やGVHDの発症および重症度との相関を明らかにしたい。
細胞培養キット、試薬、実験器具等を購入する。備品購入の予定はない。また本研究の遂行に重要と思われる調査・研究旅費を支出する。平成23年度から平成24年度への繰越金が生じた理由について。当初、外国旅費を平成23年度内に使用する予定であったが、その出張日程が2つの年度に跨がる期間となったことから(平成24年3月31日出発、平成24年4月6日帰国)、決済を平成24年度内に行うことになり、その旅費分を繰り越す必要が生じたことが主な理由である。従って繰越金の多くは、この外国旅費に充当する。その他に、平成24年度に購入する細胞培養液、試薬等の費用が、当初の見込みより多額となることが予想されたたため、平成23年度研究費の一部を平成24年度へ繰り越したことも理由の一つである。
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