研究概要 |
私どもは血小板アポトーシス制御因子であるBak/Bcl-XL系の異常によって血小板数の異常をきたす疾患があるのではないかと考え、骨髄異形成症候群(MDS)患者を対象にBakおよびBcl-XL遺伝子の塩基配列解析を行った。36名のMDS患者からDNAを抽出してBakおよびBcl-XL遺伝子配列を決定したところ、Bak遺伝子には既知のsingle nucleotide polymorphism(SNP)以外には異常を認めなかったが、Bcl-XL遺伝子にはT69P, S72T, S74T, G147C, E153Dの5つの異常を認めた。そこで、これらの異常がアポトーシス異常に関連しているのかどうかを明らかにするために各遺伝子変異を導入したpcDNA3発現ベクターを作成し、ヒト細胞であるT293細胞で発現させて、Annexin Vなどのアポトーシスマーカーの変化と細胞増殖を観察した。その結果、これらの遺伝子変異の導入によってアポトーシスは誘導されず、病態に関与している遺伝子変異ではないと考えられた。BcL-XL遺伝子は抗アポトーシス因子であり、Bcl-XLの機能不全はアポトーシスが亢進して血小板寿命を短縮させることが予想され、MDSによる血小板減少の一因になっているかもしれないと考えられるが、そのような症例の存在を見出すことはできなかった。一方、Bcl-XLの機能亢進またはBak遺伝子機能不全はアポトーシス防止に働いて血小板数増加を将来する可能性が考えられるので、本態性血小板血症の患者においてもBakおよびBcl-XL遺伝子配列の検討を行ったが、これらの遺伝子に変異を有する症例は見出されなかった。これらのことから血小板アポトーシス制御因子であるBak/Bcl-XL系の異常によって血小板数の異常をきたす疾患は存在したとしても極めてまれであると考えられた。
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